モリノスノザジ

 エッセイを書いています

2019-01-01から1年間の記事一覧

りんご恐怖症

りんごがこわい。りんごがこわい。シャリっとあまいりんごがこわい。秋の味覚まっさかり、あかくてまるくてあんなにかわいいりんごが私はこわくてたまらない。 私はりんごに怯えている。隣で他人がりんごを食べている音を聞くだけでも鳥肌が立つ。丸のままの…

風船はシャツで結んで

人間はこころとからだのふたつでできてるんだ、って考えは私たちを捉えて離さない。実際のところどうなんだろう?よくわからないけれど、もし人間がこころとからだでできているのだとしたら、私をかたちづくるもののうち「からだ」が占める割合はとても低い…

秋が足りない

もしかしたら掃除が好きなのかもしれない、と思うくらいにこの三連休、掃除をする以外の時間はがっつり無気力に過ごして、変な姿勢でダラダラしていたために変なところの筋肉がやたらと痛い。なんにもやる気がしない連休も、起きたら掃除をするぞと思うとな…

偽の事実がうまれるところ

そういった場面をまのあたりにしたときに、あのときのことがふっと頭をよぎる。(またか)と思う。それもここのところ頻繁である。それは残念なことで、つまり私はだいたい一日おきくらいの感覚で失望している。 ・・・ 夏になりかけのいつもの朝のことだっ…

セレブの寝室

セレブってグタイテキに、どういう生活をしているんだろう?って話になったときに、私たちは「セレブ」と呼ばれる人々の「セレブ」と呼ばれる以外のことを何も知らないのだと気がつく。お金にも発想にも貧困な庶民であるところの私たちが考えつくのはせいぜ…

美容師に握られている

美容室はおもしろい。めぐりにはいろいろな髪型の客たちが、鏡に向かって座っている。それもふつうの意味でいうところの「髪型」とはちょっと違う。なん十個もありそうなカーラーを巻かれて頭から壺のような機械を被っている人や、べとべとの薬剤をつけられ…

最適と特別

現状に不満があるってわけじゃないんだけど、なんかときどきこのままでいいのかなって思っちゃうときがあるんだよね。私、他を知らないでしょ?このまま何年も暮らしていって、今とは違う人生っていうのも知らずに生きていくのが、将来的にいいのかなって。…

(彼女)の消息

「ギャップ」と言うのはおおむね好ましいものと考えられている。ハンサムなのにおっちょこちょいだとか、いつも隙のない同僚が飲み会では羽目を外してしまうだとか、「おっちょこちょい」「羽目が外れる」だけに目を向ければ欠点に見えるようなことも、むし…

真昼間の怪談

怪談と言えば幽霊だけど、幽霊の怖さは「いるのかいないのかわからない怖さ」だと思う。想像してみてほしい。夜中、暗い寝室で目を覚ますとなにやらどこかからコソコソと物音がする。あるいは、トイレに立って廊下を歩いていると、自分の顔の真後ろに何かが…

よわくなる、夏

あ、秋になった。って感じる瞬間があって、それはたいてい風にあたっているときだ。気温が下がったわけでも、目に見えて日没が早くなったわけでもないのに、8月のあるとき、それはやってくる。いったいそれはなんなのだろう?あの風の正体。風速とか温度と…

さんまのひと

最近なんとなくふしぎなことがあって、蛍光ブルーの破片が歯に挟まっている。歯磨きをしてフロスをかけると、歯と歯の間から小さな蛍光ブルーがこぼれてくるのだ。もちろん、蛍光ブルー色の食物なんて食べた覚えはない。アメリカンな色彩のキャンディも、M&…

ご近所ドラマチック

どうやらここのところご近所に赤ちゃんが住んでいるらしく、朝といわず夜といわず泣き声がきこえてくる。熱帯夜が続いた半月前頃はとくに夜泣きがひどかったようで、まあ私はうるさければ耳をふさぐこともできるし、ただゴロゴロしながらうなっているだけな…

正しいけりの使い方

短歌をやっています、と言うと「ずいぶん古風な趣味をお持ちで…」と返されたことがあるのだけれど、はたして短歌は古風な趣味なのだろうか?まったく短歌に接点のない人は、短歌と聞けば百人一首に収められているような和歌をイメージするのかもしれない。で…

森の書斎から

一人暮らしの部屋に書斎をつくった。いや、つくったというよりは、気がついたらそうなっていたというほうが正しい。ベッドの脇に、天板と脚だけのシンプルなサイドテーブル。LEDのスタンドライトを取り付けて、ノートとボールペンを置けば即席書斎のできあが…

あなたがタイプ

ビーズみたいな雨がばらばらと降る夏の夜だった。大学の裏山のその先がどことつながっているのかを唐突に知りたくなった私たちは、唐突に車に乗り込んで、深夜のドライブに出かけた。街灯もまばらな山道で、太陽もない夜の曇り空が、木と木の間に明るく透け…

6時30分起床、

日記をつけるようになってから7年くらいが経った。―――と言っても、7年間毎日続けているわけではない。三日坊主を7年間続けている…いや、三日間も続けばいいほうで、最近は一週間に一度しか書かないことだってざらだ。思い出したときに、思い出したように…

世界を救うねこエネルギー

私の実家には2匹のねこがいる。一匹はしろくて、一匹はちゃいろい。両方とも牝で、捨て猫が保護されたのを妹がもらってきた。家では父・母と妹、祖父母の5人が暮らしている。ねこたちはどちらもみためがいいねこなので、人間たちにかわいがられている。と…

誠実な頭皮です

世間はお盆休みだっていうのに、思ったよりも電車が空いていなくてへこむ。乗客はいつもの半分―――というほどでもない。1割減と言えば控えめすぎるけど、3割減は言い過ぎだ。まったく日本人というやつは、年に一度の墓参りもせずに毎日電車に乗って過ごして…

俺の文章

日本語の一人称代名詞は多様である。といっても、日常で使われている一人称はせいぜい数種類といったところだろう。「わし」とか「それがし」、「拙者」「わて」なんてのは一種の役割後と化していて、生身の人間がこれを使うことはたぶんほとんどない。「あ…

人生はすばらしいと言う

このあいだひとつ歳をとった。30歳である。もう30歳。幼いころの私も、社会人になったばかりの私も30歳はとおい大人だと想像していて、でも現に30歳になってみればそれはよくも悪くも単純に、これまでの人生のさきっぽなのだった。20歳の私から切り離された3…

『天気の子』の結末を私は知っていたはずだった

映画『天気の子』の感想です。このつづきには『天気の子』・『君の名は』・『秒速5センチメートル』の結末に関する感想が含まれます。ただし、作品のあらすじ紹介や解説は行いません。

ジェラシー多治見

暑さとは体温と気温との乖離の度合いのことなのではないかと、食堂の比較的辛いカレーを食べながら思う。あるいは、冬に新調して敷きっぱなしの毛足の長いラグに両足を投げ出して、缶ビールをすすりながら思う。平熱35度の人にとっての体温38度と、平熱37度…

あたらしい皮膚

私には髪がある。おそらくハゲ家系と白髪家系の掛け合わせと思われる私の頭皮がはたしてこれからどんな成長を遂げるのか、その変化から目が離せない。ここのところ女性を中心に白髪に積極的な価値を認めようとする動きがあるけれど、それがなくとも白髪はう…

あたらしい比喩

非の打ちどころがない結婚式だった。ステンドグラスの代わりに窓を彩る新緑。陽の光がその葉の間を透けてチャペルに差し込んでいる。新郎と新婦の清潔な衣装。長椅子から香る木のにおい。讃美歌。花嫁にふりかかるばらの花びら。手作りのウェルカムボード。…

おなまえ

本屋には一生を費やしてもおよそ読み切れなさそうなくらいの本がある。おおきな本屋であればなおさらだ。かたっぱしから棚をみて歩かなければ一生出会わなかったであろうジャンルの本に、ふつうの本屋ではなかなか見つけられなかった限定版。いままで見たな…

警察からの電話

仕事を終えると携帯電話に見覚えのない番号からの着信履歴があり、どうやらこのあたりを管轄する警察署の番号のようだった。留守電には若い男の声でメッセージが吹き込まれていて、「捜査中の事件のことでお聞きしたいことがあります」と言う。後日改めてか…

どっちでもいいよ

なかなかうまくいかないなあと思うことがあって、たとえば生涯におけるそれぞれの段階で使えるお金と時間のこと。若いころはありあまるほど時間があるのにたいていの場合お金はあまりなくて、ちょっとしたぜいたくができるくらいのお金を手にするころにはき…

幸福のコストパフォーマンス

帰り道にふと、誕生日のことを思い出す。それならそのようにそれらしく、甘ったるいふわふわにろうそくでも立てて食べてやろうか。そう考えてスーパーのスイーツコーナーを覗いてみるのだけれど、なんとなくどれも食べる気がしない。けっきょく特売のオレン…

〇〇は若いうちに

瀬戸内国際芸術祭に行きたい。それでガイドブックを買ったところまではよかったのだけれど、瀬戸内の島々の風景を切り取った美しい写真の数々に、展示が予定されているアート作品に時を忘れることもあれば、一方で現実的な不安もふくらんでくる。 まず、開催…

孤独な夢職人

ここのところ、朝になると自然と目が覚める。それも4時とか5時半のような早朝に。起きたい時刻ぴったりに目が覚めるのならすばらしいのに、と思いつつ二度寝する。窓の外で鳥がヂュンヂュン鳴いてるような朝だって、雨風が街路樹をめちゃくちゃに揺さぶる朝…