モリノスノザジ

 エッセイを書いています

耳のライフは1

私の部屋にはブタがたくさんいる。と言っても、ほんものの豚ではない。ミニブタは犬や猫と比べてもふもふした毛が生えているわけじゃなくて、人間の肌みたいにしっとりとしてそれはさわりごこちがいい(さわったことはないけど)。けれど、私の安月給では子…

濃厚接触のはじめかた

眼鏡を外したら美少女だった、というのは物語では定番の展開だ。実際のところ眼鏡のレンズは透明であって(事情があって色付きのレンズをはめている場合もあるだろうけど)、透明なレンズを通していつだって素顔が見える。だから、漫画に出てくるようなジャ…

もうXXなのにね。

今年はきっと日焼け止めが売れていないと思う。浮き輪も、スーツケースも、ビンゴのがらがらも。そういえば、いつも通る大型スーパーに今年水着コーナーはあっただろうか? 「もう8月なのにね」と何気なく言った瞬間、まぶしいくらいの既視感に襲われた。あ…

エロス紙一重

電車に乗るとときどき、とんでもないものに出くわすことがある。空いた休日のロングシートで堂々と絡み合っているカップル。肩にかけた荷物のせいで、胸元が無防備なおねえさん。気づいているのかいないのか、会話に夢中になるうちにミニスカートの中身が丸…

呪いと呪い

私には呪いがかかっている。カレーライスの玉ねぎを、とろとろになるまで炒めずにはいられない呪いだ。この呪いにかかると、カレーライスをつくるときに玉ねぎがとろとろになるまで炒めずにはいられなくなる。…まあ、それはそれでおいしいからいいんだけど。…

世界がうまれるところを見た

おそるおそるという感じだった。映画や演劇を観た日には日記を書くようにしていて、だから、私の日記は2月28日からずいぶん長い間新しい文字が書かれずにいた。新型コロナウイルスがだんだん危機感をもって受け止められるようになってきたころで、それでも予…

息をするのは大事でしょう?

右の手首と左の手首を重ねて高く上げ、上半身をゆっくりと左に倒す。もどって、右に。もどって、また左。Fit Boxingでエクササイズの前後に行う準備運動のひとつで、いつからか、この運動をしながらたくさんの息が胸に入ってくるのを感じるようになった。腕…

ブログという沈みゆく船に乗って

他人といっしょになっておもしろがるって、すごくいいなあと思うことがある。学校に通っていたころはそんなタイミングがいくつもあったのかもしれない。でも、なんだか逃してしまっていた。昨日見たアニメのこととか、流行りのドラマのこと。このあいだ発売…

第三の腕の男

坂井(仮名・28歳)の朝は、同棲中の彼女が手作りした弁当を持って玄関を出るところから始まる。近所の勤め先まで自転車で通う彼女と並んで通りを歩いて、駅近くの交差点で別れるのが日課だった。交差点でなかなか青にならない信号を待ちながら、去っていく…

花の矜持

紫陽花が好きだ。こんもりした緑の葉っぱに、白や水色の小さな花。意外と公園なんかにも雑に植えられていて、梅雨時期に花が咲いているのをみつけてはじめてそれと気がつくこともある。紫陽花をうつくしくしているのはなによりもあのガサツな感じの大ぶりな…

おしゃぶりアイスバー

新型コロナウイルス感染拡大に伴う自粛生活の広がりによって、世界的に体重が増加しているとかしていないとか、そんな話をきく。振り返ってみれば、ここのところ運動をしていない。…なんて、新型コロナウイルスが流行りだすまえから大して運動なんてしてもい…

ボールペン・コ・コンプレックス

私は左利きだ。文字を書くのも、食事をするのも、はさみもナイフも改札も、すべて左の純度高めな左利きだ。一般に(?)左利きは「器用だ」と思われているふしがあるけれど、まったくそんなことはない。私は左手が使えるかわりに右手が使えないのだから、は…

6月のやまびこアパート

スマートフォンを使い始めてほぼ8年。その間に何台かの世代替わりを経て、それでも新しい機種を買うたびにダウンロードするアプリがある。tenki.jp(https://apps.apple.com/jp/app/tenki-jp/id433865746)だ。ほかの天気アプリと比べて優れている――かどう…

Your name is,

こんな調子で大丈夫なのかねとはもともと思っていたけれど、新型コロナの影響で外出自粛が呼びかけられるようになってからは、より少なくなってきている気がする。電車の中吊り広告。この頃はすこしずつ戻ってきたような印象もあるけれども、こうしてぼーっ…

おいしいものが好きなひと

ちょっとでも気を抜けば、ろくでもない食事をしているから困る。ほとんど麺しかないパスタに半冷凍のミックスベジタブルを混ぜたり、いつつくったかわからない炒め物を何日も食べたりしている。腹が丈夫で助かる。それでもなんとか自分に「食べさせている」…

(笑)

食べ終わったアイスの棒にはアイスの味がしみ込んでいるような気がして、もう食べられる部分は残っていないのに、その木の棒をいつまでもかじっていたものだ。Doleのフルーツバーみたいなタイプは特に。意識を集中させてやれば実際木の味に混じってほのかに…

あなたが運命の人じゃなくても

何度寝返りをうっても眠れない夜に、唐突にその人のことを思い出した。久しく会っていない。…ああそうか、会っていない長さなんて関係ないんだ。私とその人とはなんの関係もなくて、ただ私が一方的に仲良くなりたいと思っていただけだったのだ。大学を卒業し…

SWITCH ME!!

「うちはうち、よそはよそ」と言えば、おもちゃをねだる子どもをなだめる親が言うセリフの代名詞だ。しかし私は、幸か不幸か(?)リアルにこのセリフをぶつけられたことはない。元来我慢強い子どもであったし、おもちゃよりも、家の外に無限に広がる田んぼ…

守護霊のスパルタ手洗い塾

「9階のトイレで、いつも手を洗わないひとがいるんです」。 女性社員から突然報告を受けた私は、とりあえず「はあ」とあいまいな返事をかえすことしかできなかった。発言の意図がわからない。女性社員は、私の「はあ」を発言の続きを促す合図と受け止めたら…

全国都道府県バックパネルの旅

地元には苺大福で有名な和菓子店があって、何度かお使いで苺大福を買いに行ったことがある。その店では、苺大福を買うと苺の絵が描かれた箱に苺大福を詰めてくれる。その苺の絵がずっと印象的だったのだろう。なんとなく私はその店を「苺大福の店」として認…

ここだよ モリノスノザジ

新型コロナウイルス感染拡大により外出自粛が呼びかけられるなか、世間では無人島への移住がちょっとしたブームになっているらしい。誰もいない無人島で暮らせばウイルスから身を守れるし、仮に自分が無症状の保菌者だったとしても誰かにうつす心配はない。…

はげとアイプチ

電車のなかでは、わりあい人がよくみえる。うかつなおねえさんの胸元も、あやういおじさんの頭頂部も、窓ガラスの闇に映ったスマートニュースも、吊革の下からはいろんなものがよく見える。 彼女はロングシートのなかほどに座って、マスクの前に構えたスマー…

「新型コロナウイルスの影響により…」

ここのところ、1日に何度もこのフレーズを聞く。何日かに一度は自分も口にする。はじめのころ、世界中がこんなことになるだなんてしていなかったあのころこそ心配半分興味半分で真剣にニュースを見てみたりもしたのだけれど、1日刻みですこしずつ増えてい…

「おばさん」はひとりください

みょうに胸がどきどきするのはなぜだろう。エレベータの操作盤で「10」の数字を押して。私を乗せた箱がしずかに上昇するそのなかで。その部屋のノブをまわして、重たい扉を閉める。明らかに、必要ないくらいのゆっくりさで。注意なんてしなくったって足音は…

りんご恐怖症

りんごがこわい。りんごがこわい。シャリっとあまいりんごがこわい。秋の味覚まっさかり、あかくてまるくてあんなにかわいいりんごが私はこわくてたまらない。 私はりんごに怯えている。隣で他人がりんごを食べている音を聞くだけでも鳥肌が立つ。丸のままの…

風船はシャツで結んで

人間はこころとからだのふたつでできてるんだ、って考えは私たちを捉えて離さない。実際のところどうなんだろう?よくわからないけれど、もし人間がこころとからだでできているのだとしたら、私をかたちづくるもののうち「からだ」が占める割合はとても低い…

秋が足りない

もしかしたら掃除が好きなのかもしれない、と思うくらいにこの三連休、掃除をする以外の時間はがっつり無気力に過ごして、変な姿勢でダラダラしていたために変なところの筋肉がやたらと痛い。なんにもやる気がしない連休も、起きたら掃除をするぞと思うとな…

偽の事実がうまれるところ

そういった場面をまのあたりにしたときに、あのときのことがふっと頭をよぎる。(またか)と思う。それもここのところ頻繁である。それは残念なことで、つまり私はだいたい一日おきくらいの感覚で失望している。 ・・・ 夏になりかけのいつもの朝のことだっ…

セレブの寝室

セレブってグタイテキに、どういう生活をしているんだろう?って話になったときに、私たちは「セレブ」と呼ばれる人々の「セレブ」と呼ばれる以外のことを何も知らないのだと気がつく。お金にも発想にも貧困な庶民であるところの私たちが考えつくのはせいぜ…

美容師に握られている

美容室はおもしろい。めぐりにはいろいろな髪型の客たちが、鏡に向かって座っている。それもふつうの意味でいうところの「髪型」とはちょっと違う。なん十個もありそうなカーラーを巻かれて頭から壺のような機械を被っている人や、べとべとの薬剤をつけられ…