モリノスノザジ

 エッセイを書いています

全国都道府県バックパネルの旅

 地元には苺大福で有名な和菓子店があって、何度かお使いで苺大福を買いに行ったことがある。その店では、苺大福を買うと苺の絵が描かれた箱に苺大福を詰めてくれる。その苺の絵がずっと印象的だったのだろう。なんとなく私はその店を「苺大福の店」として認識していて、高校生のあるとき、友達と桜餅を買いに行ったときに初めて、その店では苺大福以外の菓子も売っているということに気がついたのだった。苺大福しか売っていないなんて、まあ、そんなことはありえないのだけれど、桜餅を手にして初めて「あ、そういえばそうだよね」という感じがした。そういうことは往々にしてあるものだ。

 そんなわけで子どものころからなじみのある苺大福だけれど、生まれてからたった三十数年の歴史しかないらしい。言われてみれば、苺自体もともと日本に自生しているわけでもなさそうだし、苺を大福で包むなんてモダンな食べ物がそんなに昔から食べられていたはずもない。私の記憶ではずいぶん昔からあることになっていた苺大福だけれど、それも当時はまだ世間に広まり始めていたころのわりと新しめの菓子だったのかもしれない。これもまあ、言われてみればそうなのか、と言う感じ。

 

 苺大福と同じように「そういえばいつからあるんだろう」と言えば、バックパネルだ。記者会見とかで後ろに映り込んでいるあれである。気がついたらいつからか使われるようになった気もするけれど、いつからかと言われると分からない。1年前は言わずもがな、すでにあちこちで見かけるようになっている。3年前も。5年前もそうだ。10年前はどうかというと、まあ使っていたような気がする。そうやってさかのぼっていくとバックパネルはずっと前から使われているような気もしてくるし、しかし、あるときだんだん使われ始めたような記憶がないでもない。戦国武将も戦場で陣幕を張るくらいだから、意外と日本では古来からバックパネル(幕)が伝統的に使われてきたのかもしれない。―――これはさすがにそうでもない。

 

 とにかくそれくらい当たり前の存在になっているバックパネルだ。新規感染者の発生を報告する自治体の記者会見映像が毎日流れてうんざりするけれど、その後ろに目を向ければ、それぞれに趣向を凝らしたバックパネルが色とりどりの背景を咲かせている。

 

 バックパネルの基本は市松模様らしい。白地のパネルと色がついたパネルとを交互に組み合わせたもので、パネルの形が正方形のパターンと、横長長方形のパターンの二種類がある。

 福岡市役所のバックパネルはこの典型だ。青と白の市松模様。青地のパネルには「福岡市 FUKUOKA CITY」という文字と市のマークが白い文字で描かれている。白地のパネルは「アジアのリーダー都市へ」というキャッチコピーとロゴ。二種類のパネルで構成されるシンプルなバックパネルで、見た目もすっきりしている。大阪府も同様に、二種類のパネルで構成されている(ただし、大阪府のバックパネルはほかにも何種類かある…ような気がする)。

 鳥取県や愛知県、名古屋市も同じ市松模様。ただ、パネルのパターンを増やしているようだ。千葉県は水色の地に白い文字で「千葉県」、水色地に白い文字で「CHIBA」、チーバくんのイラストパネルと三種類のパネルを使用している。ちーばくんのイラストは数種類あるので、実際のパネルパターンはもっとおおい。バックパネルにゆるキャラのイラストを使用している自治体はほかにもあって、鳥取県のトリピーや大阪府のもずやんなど。もずやんがマスクをしているバージョンもあってなかなか手が込んでいる。名古屋市ではナゴヤ飯のイラストが描かれている。

 

 同じ市松模様に分類されるのだろうか?岡山県津山市のバックパネルはすこし変わり種。角丸の◇が感覚を空けて並んでいる(かわいい)。色合いもピンク・水色とパステルカラーでかわいい。鹿児島県姶良市は、全体が黄色の背景に白の〇が一定間隔で並んでいる。これもあまり見ないデザイン。大阪府堺市は市松模様なのだけれど、すべてのパネルが白地…もしくは限りなく白に近い薄い色を使っているように見える。これもちょっとめずらしいパターン。

 

 わくわくするのは山梨県。障子の枠のような横長長方形の桝(立体)に複数種類のパネルがはまっている。新型コロナウイルス対策を呼び掛けるパネルはともかく、無地のパネルが何種類かはまっていて、これが、渋い!織物の綾目みたいな質感のもの、土壁のようなもの、石っぽい感じのもの。「山梨県」のパネルの背景に使われている桔梗色はなんとなく信玄餅を連想させ、全体的に城とか山梨ゆかりの武将・武田信玄を彷彿とさせる。楽しい!

 立体の枠は北海道でも使用していて、ここでは情報提供用のパネルのほかに木目のパネルを使用。しかも、よく見ると一枚一枚木目の模様が違うという細かさ。背景に文字がひしめくバックパネルを使用する自治体もあるなかで、木目に癒される。

 

 まあこんなもんかな…と思いかけていたところに見つけたのが青森県のバックパネル。バックパネル前面に青森の港?の写真がうっすらプリントされていて(市松模様じゃない!)、そのうえに青森県の形の白抜きと、県のマークが並んでいる。寄りの画で見たときにどう見えるのか気になるけれど、なんとなく明るい気持ちになれるような気がするデザイン。

 

 バックパネルを探すにはインターネットもいいけれど、いまならふだんのニュースでもたくさん見られる。昨日は何人、今日は何人なんて真面目に受け止めるのが嫌になったときは、すこしだけ遠くを見てみるのも楽しい。こういう時期に、本当は記者会見なんてないほうがいいんだけど、山梨県とか津山市のバックパネルを見られたらラッキーと思おう。こまめにパネルをつくっているところもあるので、新作を見つけられる日があるかもしれない。もっと気になったら「記者会見」で検索したり、各自治体のHPで公開している記者会見記録を見てみてもいい。

 外に出かけられないいま、おうちから、全国都道府県バックパネルの旅に出てみるなんて、よくないですか?

 

お題「#おうち時間