モリノスノザジ

 エッセイを書いています

もうXXなのにね。

 今年はきっと日焼け止めが売れていないと思う。浮き輪も、スーツケースも、ビンゴのがらがらも。そういえば、いつも通る大型スーパーに今年水着コーナーはあっただろうか?

 

 「もう8月なのにね」と何気なく言った瞬間、まぶしいくらいの既視感に襲われた。あれ?なんだか、ここのところずっとずっとそうやって月をまたいできたような気がする。先月は「もう7月なのにね」って、その前は「もう6月なのにね」って言い合いながら。

 

 「もう8月なのにね」と言ったときの私が言いたかったことは、もう8月なのになかなか暑くならないね。ということだった。実際、北海道にはまだ夏がきていない。暦の上ではあと4日もすれば8月なのだが、それはそれとしてまだ夏が着ていない。今日の最高気温は23℃で、おまけに雨まで降っていた。晴れていても、風も日差しも秋のはじまりみたいにしんなりとしていて、まるで張り合いがない。これはまるで夏ではない。

 「もう7月なのにね」といったときもまた、同じような気持ちだったような気がする。去年は「まだ7月なのにね」って言うほど早くから暑かったから、それを思い出すとなおさらだ。さすがに、5月末に「もう6月なのにね」と言ったときや、4月末に「もう5月なのにね」と言ったときには、その言葉に別の意味を持たせていたと思う。ここが北海道だからそれはきっと、もう5月なのになかなかあたたかくならないね、ということだ。

 

 北海道の夏は盆明けには終わる。タイムリミットはあと二週間。なのに、今日もまだ夏は来ていない。セールで買った冷感素材のパンツも、新しいサンダルも、ろくに活躍しないまま秋の始まりが来る。もしかして、8月の終わりには「もう9月なのにね」なんて言ってたりするんだろうか。

 

 言わないはずだ。このまま北海道に夏が来なかったら。だけど、夏が暑いとかそんなこと関係なしに、今年はずっとずっとそんなふうに言い続ける気がする。というか、私が気がつかないだけで、本当はもうすでに夏はやってきているのかもしれない。旅行にもいかず、休日に散歩にもいかない私が気がつかないだけ。海までのサイクリングも、湖畔でのキャンプもしない私が会いに行っていないだけ。季節を身体で感じるためのありとあらゆる機会を奪われて部屋に閉じ込められたままの私は、この先もずっと、自分のなかに流れる季節の歩みと、それとは無関係にずんずん進んでいくカレンダーの早さとを、上手に調整できないままに暮らしていくのかもしれない。

 

 こんな生活がいつまで続くのかわからないけれど、一年半後くらいの私は「もう2022年なのにね」なんて言わずにいられたらいいなあと思う。

 

今週のお題「2020年上半期」