モリノスノザジ

 エッセイを書いています

ここだよ モリノスノザジ

 新型コロナウイルス感染拡大により外出自粛が呼びかけられるなか、世間では無人島への移住がちょっとしたブームになっているらしい。誰もいない無人島で暮らせばウイルスから身を守れるし、仮に自分が無症状の保菌者だったとしても誰かにうつす心配はない。無人島にWi-Fiを立てればテレワークで仕事をすることもできるし、食材は海や山で集めればいい。たしかにこれはいい手段…といっても、無人島への移住が流行っているのはあくまでもゲームの世界でのお話。Nintendo Switch専用ソフト「あつまれ どうぶつの森」の話である。

 

 「おいでよ」「とびだせ」「ポケットキャンプ」とプレイしてきた元森民であるところの森としては、気になるニュースである。数カ月前からSwichで配信される予告動画を繰り返し見ては、無人島での生活に心をときめかせてきた。

 しかし、「おいでよ」「とびだせ」「ポケットキャンプ」とプレイしてきた「元」森民としては、気軽に新作に手を伸ばすこともためらわれる。過去にプレイした作品の村、それがまだ残っている―――わけではないのだ。どうぶつたちがいたあの村たちは、すでにもうない。好奇心でソフトに手を出し、村をつくっては、しばらくして飽き、放置して雑草を生えさせ、部屋にゴキブリを住まわせ、住民たちをさみしがらせた挙句に廃村としているのである。

 もしも私が「あつまれ どうぶつの森」に手を出せば、この悲劇がまた繰り返されることになる。廃村を告げるときのしずえの切ない表情…それを思えば、軽はずみな気持ちで悲劇の島を生むことはけっして許されないのである。

 

 正直なところ、島へ移住するだけの時間を確保できないという理由もある。あたらしい島ではきっとできることがたくさんあるのだろう。くだものを集めて売って、借金を返して、住民とおしゃべりして、釣りをして、虫を採集して、洋服を着て…それだけのことをする毎日する時間はない。だんだん時間がとれなくなるにつれて島が遠ざかっていき、どうぶつたちに「最近顔を見ないね…」なんてささやかれること間違いなしである。

 どうぶつの森の住民たちは基本的に好意的な生き物で、しばらくログインしなければ「最近見かけないから心配したよー」なんて言ってくれたりする。けれど、しばらく顔を出さないと心配されるのはどうぶつの森だけではないのだ。どうぶつの森にかまけて仕事をサボるなんてわけにはいかないし、Fit Boxingのおねえさんも私を待っている。ここにも、ブログの更新を待ってくれている人が(きっと)いる。私の村は、どうぶつの森以外にもあるのだ。

 

 ここは私の村で、ときどきふらりとあなたが訪れたりする。私は長くも短くもない手紙をただ置いておくだけで、だれとも直接話すことはない。でも、ここは確かに私が生きる場所のひとつだ。正直言って島暮らしは魅力的だ。こんなにああだこうだ言いながら、このブログを書くためにどうぶつの森のWEBサイトを見たりして、どうしようもなく住みたくなってしまっている。もしかしたら私も島に移住するかも。一か月後、ああいやもうこれからでも。それでも、ときどきはここに戻ってくるし、ここがそれぞれの暮らしに疲れただれかの気晴らしくらいにはなればいいと思う。気分転換にとおりかかるどこかの村のひとつになれれば。

 モリノスノザジ、ここですよ。