モリノスノザジ

 エッセイを書いています

チーズたっぷりミラノ風ドリアのパ

 12月24日の夕方、サイゼリヤ札幌すすきの交差点店。二人席。テーブルをはさんで向こう側の座席には、ブラウンのコートが丸まっている。まだ少しだけついていた外の雪は、サイゼリヤのあたたかさに緩んで、やがて微細な光の粒へと変わっていく。私はテーブルの上に両腕を乗せたまま、ただそれをじっと見つめていた。

 

 ふたりともスマートフォンをいじりながら、料理を待っている大学生たち。小説を読みつつ、グラスワインを傾けるおじさん。アイドルの話で盛り上がる女子三人組。何もせずにひとりで黙りこくっているような客は私くらいだ。

 店員さんの目には、さっき注文したチーズたっぷりミラノ風ドリアがなかなか届かないために、腹の底で燃えあがる静かな怒りに震える客として映ったかもしれない。忙しいのに、プレッシャーをかけてごめん。やっぱり、忙しいんでしょ、イヴ……と謝りかける。いやしかし、クリスマスイヴだからカップルがサイゼリヤに大挙してやってくる、ということはないだろう。夜景の見えるホテルだとか、オシャレなバーだとか、きっとそういうところにいるのだ。クリスマスイヴのカップルというやつは。つまり、イヴだからサイゼリヤがいつもより混みあっているという道理もない。ごめん、さっきのごめんはやっぱり撤回する。

 

 こういうタイプの、つまり、小さいテーブルをはさんで椅子がひとつずつの席に通されると、いつも悩む。店員に案内されるので、まずはとりあえず座る。荷物は自分が座る席とは反対側の席へ。ハンカチと、財布も取りだしておく。後でセルフの水やおしぼりを取りに行くときに、スムーズに動けるようにだ。メニューを広げ、オーダーをする。注文した料理が届くまでの間、向かいの席の鞄からスマホやら本やらノートやらを取り出して何かをするかと言うと、それもなんだかせわしないように感じる。スマホくらい取り出してみているのがたいていのことだけど、こんなふうに、ただ料理を待っているだけというのも久しぶりかもしれない。

 

 考えるのはブログのことだ。書きかけの記事の続きをどう書くか、どうオチをつけるか……。ブログのことを考え始めると、もうそれしかできない。音楽を流していても書けない。ブログを書いているとき、私はブログを書くだけしかできなくなる。

 

 そもそもが最近は、だらだらと動画を流して過ごしがちなのかもしれない。食事をしながら、取り込んだ洗濯物をたたみながら、料理をしながら。見逃したニュース番組のアーカイブやら、ゲームの作業配信やらをずっと流してしまっている。手を動かしている間も目は空いている――という感覚がある。Amazon Fire Stickを買って以来、テレビで手軽にYoutubeが見られるようになったことも手伝って、ついつい何かを見ながら流し見をする。そうすると自然と、ブログに向かう時間は少なくなる。動画を流しながらブログを書くことはできない。ひとつの時間にひとつのことしかできないということが、なんだかすごくコストパフォーマンスの低いことのように思えてしまう。

 

 もっとも、ゲーム配信を流しながら読む新聞や料理に、どの程度の「パ」があるというのかは疑問だ。常にながら「し」をすることは、結局何かを得ることにはつながらないようにも思える。爪を切りながら映画を観ていても、映画の内容は入ってこないは、爪はガタガタだわ……ということになりかねない。最終的な結論としては、常にひとつのことに集中することがもっとも効率的だという場面もありうるだろう。それでも、効率、とかコスパという考え方は、もうずっととれないままの机のシミみたいに、ずっと私の前にちらついてくる。考えているのか?惰性かもしれないけれど。

 

 そういうわけで、チーズたっぷりミラノ風ドリアが届くまでの時間はひさびさにブログのことだけを考える時間になった。実際には、待ち「ながら」考えている。けれど、待つというのは行動としてほぼ0行動だ。だから、実質的にはただ考えているのだと言ってもいいだろう。

 

 それもこれもチーズたっぷりミラノ風ドリアが届くまでの時間だと思っていたのだけれど、食べ始めてみれば、それほどチーズたっぷりミラノ風ドリアに思考を割くこともなかった。頭のなかで考える文章のなかに、(熱い)とか(本当にチーズたっぷりだな)なんてひとりごとを呟く私がときどきフェードインしてくる。

 

 しかしそれはあくまでも考えるのを邪魔するほどではなく――店員さんの目には、空腹で空腹で待ちきれなかったところに届いたチーズたっぷりミラノ風ドリアを全身全霊で食べる熱心な客として映ったことだろう。熱いドリアを口に運びながら、ただドリアだけを見つめて考えていた。

 そのおかげでこうやって、まがりなりにも文章ができあがったわけだから、チーズたっぷりミラノ風ドリアのパフォーマンスの高さには驚かされる。ありがとうサイゼリヤ。ありがとう、チーズたっぷりミラノ風ドリア。