モリノスノザジ

 エッセイを書いています

フレッシュわんこPC

 職場にあたらしいPCが入った。あたらしいPCは、以前のよりも画面が大きく、動作も速くてこころなしかディスプレイの発色もいい、あたらしいPCだ。

 

 そして、あたらしいだけではなくてとてもフレッシュなPCだ。どういうわけだか彼は、メールを送信しようとするたびに、私に事前チェックを求めてくる。『送り先、社外ですけど大丈夫ですか?』、『この添付ファイルで間違いないですか?』、『文章、これで問題ないですか?』。はじめは慣れなくてうっとおしさすら感じていたけれど、しばらく付き合ってやると社会人になりたての後輩のようでなんだかかわいく見えてくる。エクセルのアニメーションも一度設定を外そうとして考えなおしてみた。これを実装しているのが社会人なりたての後輩だと考えると、つまらないおもちゃに夢中になる若者の姿が見えるような気がして、萌えた。アニメーションの設定は、しばらくのあいだ外さないことにした。

 

 あたらしいPCは予測変換もフレッシュだ。「よろしくお願いいたします」とタイプしかけると、すかさず『よろしくお願いいたします!』。『申し訳ございません!』に、『おはようございます!』。『ありがとうございます!』、『承りました!』、『お疲れさまです!』。とにかく予測変換でエクスクラメーションマークを推してくる。実生活で感嘆符のつくような元気なセリフを言うことが皆無な私とはあらゆる面で正反対の、実にフレッシュなPCだ。

 

 そんな彼は、フレッシュなだけあって物覚えもはやい。よく使う単語は予測変換ですぐに出てくるし、なんなら私がよくするタイプミスもすでに覚えている。それは覚えなくてもいいのだけれど。これだけ物覚えがいいのなら、きっとしばらくもしないうちにアンフレッシュな私に染まって彼もアンフレッシュになってしまうのだろう。フレッシュわんこPCの日々成長する姿を見守りながら、なんだかちょっとだけ残念というかもったいない気分。ときどき付き合いでエクスクラメーションマークをつかってあげようかな。

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