モリノスノザジ

 エッセイを書いています

萌える二面性のリレー

 裏のあるひとに惹かれる。といっても、恋人がイカの密漁者だとか、18歳で×5だとか、どこかあぶない国のスパイだったりすればいいなと思っているわけではない。そこまで行き過ぎていなくても、ちょっとした違和感のようなものであってもいい。二面性のある人間は魅力的だ。

  二面性にもいろいろな種類がある。たとえば「いつもは気に食わないけど、実はいいやつじゃん」みたいな【-/+(表がマイナス、裏がプラス)】タイプ。第一印象は最悪だったけど、気が付いたら恋に落ちていた――といった感じでラブストーリーに、敵が実はいいやつだった――というような感じで冒険漫画によくいそうなタイプだ。もうひとつは「いつもは元気なのに、こんな一面もあるんだ…」という【+/-(表がプラス、裏がマイナス)】タイプ。クラスの盛り上げ役が実はひどくナイーブだったり、自分に自信が持てないでいる姿にきゅんとくる類の二面性だ。

 

 私が惹かれるのは圧倒的に【+/-】タイプだ。普段は破天荒にふるまっている人が、裏では弱音を吐いていたりなんかするともうどきどきする。それは「好き」とは違い、なにか純粋にその人に近づきたいというか、好意とは別の種類の感情のような気がする。

 みんなの前ではしょうもないギャグを飛ばしたりして明るくふるまっているひとが、ひとりになるといつも道の影になっているほうを歩いていて、無表情というかちょっとこわいくらいの表情をしているのを見て、どうしようもなくその人と話がしたくなったことがある。けっきょく私はその人とろくに話もできないままもうきっと彼とは会えなくなってしまったのだけれど、こうして私がネットで書いたりしているのは、いつか彼にみつけてもらえるようにシグナルをおくるためなのだと今でも思っている。

 

 【+/-】タイプの人には惹かれる一方で、ときどきこわくなることもある。例えばおなじ【+/-】タイプでも、普段はニコニコしてるけど実は計算高いとか、裏でかなり辛辣な悪口をいうタイプはなんとなく苦手だ。私の前で辛辣な姿を見せてくれたとしても、それを信頼のあかしと考えていいのだろうか?私が「裏」だと思っているのは実はまだ「表」であって、まだあなたには「裏」があるのではないか?と不安になってしまう。

 こうやって考えてみると、一口に「二面性」といってもいろいろな種類があることに気が付く。二面性というと「ギャップ萌え」ということばもあるけれど、私が思うのはギャップ萌えとかすこし違う。その人が持ついくつかの属性がからみあったり背反したりしながら独自の魅力を生み出すようなもので、それは「一般的なイメージとのズレ」という意味でのギャップとは少し異なっている。

 

 それじゃあ、たとえばどんな属性どうしが同じ人間のなかに同居していたら魅力的なのだろうと考えてみる。ルール違反はふたつ。ひとつは、概念上真逆のことばどうしを組み合わせることで、これは単純におもしろくないから。たとえば普段は真面目だけど〇〇に関しては不真面目、という人もありうるけれど、真逆の概念どうしをぶつけるのは思考実験としてたのしくない。二つ目は、ことばの組み合わせに性格以外の属性をあてはめること。例えば性別とか職業も人の属性のひとつだけれど、「男だけど〇〇」とか「医者なのに〇〇」というタイプの二面性は単なる偏見に基づくものだから。

 以上ふたつの禁止事項を避けながら「魅力的な二面性」を考えてみる。

 

【王道】

・さわやかだけど毒舌
・毒舌だけど優しい
・優しいけど毅然としている
・毅然としているけど適当

 

【守ってあげたい】

・わんぱくだけど寡黙
・寡黙だけど甘えん坊
・甘えん坊だけどあまのじゃく

 

【ちょっとコワイ…けど気になる】

・厳格だけど踊りが好き
・踊りが好きだけど狡猾
・狡猾だけどいいにおい

 

【ついていきたい】

・仕事ができるけど泣き虫
・泣き虫だけど勇気がある
・勇気があるけど服装がダサい

 

 うーん。どうでしょう。私は「勇気があるけど服装がダサい」とか好き。あと、ここにはないけれど「誠実だけどクズ」なんていうのはかなり好きで、我ながら気をつけろよと思う。

 

 いろいろな組み合わせを考えてみると、同じことばの組み合わせでも表・裏が入れ替わるだけでずいぶんイメージが変わるな、と思う。たとえば「厳格だけど踊りが好き」はほほえましい一面を見てしまったな、という感じだけれど、「踊りが好きだけど厳格」はもはや単なる鬼ダンスインストラクターである。「仕事ができるけど泣き虫」な同僚は支えたくなるけど、「泣き虫だけど仕事ができる」ヤツがいたらちょっと複雑な感情になるかもしれない。

 そして、属性どうしの組み合わせもむずかしい。意外性がありながらきゅんとくる組み合わせを見つけるのはなかなか大変だ。「くさいけど几帳面」はなんかむかつくし、「いつも笑顔だけど残忍」は恐すぎる。「チャラチャラしてるけどダサい」人はなんだか正視できないかも…。ま反対ではないけれど、反対から少しだけズレたくらいの属性を併せ持っているのがいい感じなのかもしれない。

 

 人の性格にはいろいろな属性があるけれど、真面目一辺倒とか、ガサツなだけの人間なんて誰一人としていなくて、みんながいろいろな側面を持っている。そして、ひとつだけが切り取られたときには消極的に受け止められてしまうような属性も、ほかの属性と組み合わさることでその人独自の魅力に変わるのはとてもおもしろい。

 こんな二面性を持つ人に私は惹かれるのだけれど、私に関しては良くも悪くも一面しかない正直者だ。魚を食べるのが苦手とか、嫌なことは後回しにしがちとか、朝は一発目の目覚ましで起きれないといったような私のマイナス面が、魅力的な「二面目」になることはあるのだろうか。いまのところ、単なる短所にすぎないような気もするけれど。