モリノスノザジ

 エッセイを書いています

絵描きはジムへ行け

 ほんとうはちっとも運動なんてしたくなくて、でも運動不足がよくないのでしぶしぶジムに通っている。どうしても気がすすまなかったら、今日はストレッチ用のマットレスでごろごろしてるだけでいい。そうやって自分をなだめてすかしていざジムに行ってみると、気が付けばしっかり運動している自分がいる。やる気なんてなくても物事は為せるのだなあと感心する瞬間だ。

 

 そんな私のジム通いに、ひとつの楽しみができた。トレーニングルームの一角に、マットが敷き詰められたストレッチ用のスペースがある。中央には大きなテレビが鎮座して、『トレーニング前後のストレッチ』という動画が延々と流されている。テレビの前には人が集まって、みんな思い思いに身体をほぐしている。なかには自己流のストレッチをする人もいるけれど、動画に合わせて身体を動かす人がほとんどだ。ゆったりとしたピアノの音。誰とも言葉を交わさないのに、みんなが同じタイミングで同じ動きをしているのがなんとなくシュールで、神の視点から見た画を想像して思わずにやけてしまう。

 ストレッチのおもしろいところは、思いもよらないポーズをとっている人体を、思いもよらない角度からながめられることだ。階段を上る人を下から見上げたり、横になって片足を曲げ伸ばししている股間をながめたり。絵を描く人向けのポーズ集とかデッサンの教科書って、日常生活ではまあまあお目にかかれないようなヘンなポーズが書かれていたりするのだが、そんなヘンなポーズがここでは合法的に(?)取られている。それも、みんな基本的に薄着なので身体の線が見えやすい。筋肉なんてむき出しである。

 そんなわけで、ストレッチマットでおっさんおばさんの「裏側」をながめるのもジムに行く目的のひとつになりつつある。デッサンが苦手な絵描きはぜひトレーニングジムに行くといいと思う。私もそこでデッサン人形をやってます。ぜひ。