モリノスノザジ

 エッセイを書いています

ぽりぽりフレグランス

 「無くて七癖」というけれど、たしかに癖はあるものだ。話をしていて何かを思い出そうとするとき、電話での話中に頭を掻く癖。考え事の最中に、右手の第二関節で鼻の下をこする癖。どうやら私には掻く・こするタイプの癖が多いようで、それ以外にも身体じゅうをボリボリしてはあちこち傷だらけになっている。

 みぞおち、首筋、鎖骨、尻、太もも、ふくらはぎ、胸、ひざの裏…手の届くやわらかい部分にはおおよそ引っかき傷があり、それが暗闇のなかで光る蛍光ピンクの塗料みたいにあんまりにもはっきりくっきりしているものだから、風呂場で自分の身体を見るたびわれながら驚く。同じ傷がわが子にあるのを見つけたら、虐待かいじめを疑うレベルだ(子どもはいないけど)。特段かゆみを感じることもないのだが、冬場には特別ひどくかきむしっていることを考えれば肌の乾燥が原因なのだろうか。

 肌の乾燥を保つボディ・ケア・グッズっていろいろあるけれど、どれをとってもおおよそ使うのが面倒である。もらったり買ったりしてとりあえず封を開けたいろいろなものが、使いかけのまま風呂場に散らかっている。風呂上がりに塗るボディクリームの類は、塗るのが面倒。塗った後のペトペトが乾くまで服を着られないのは不便で寒いし、中身が残りわずかになった容器をさかさまにしてフゴフゴするときには中身が散り散りに跳びはねることに怯えていなければならない。濡れているうちに身体に塗るボディオイルはうっかりすれば風呂場で転びそうになるけれど、伸びがよくって手軽なところがいい。今使ってるのが終わったら同じようなのがほしいなあと思うのだけれど何年使っても全然なくなる気配がない。つまり全然習慣になっていないのだ。プラス・アルファのボディケアを毎日するのは面倒だが、習慣的にケアしなければ肌の乾燥は防げない、というジレンマがある。くるしいことだ。

 クラシエホームプロダクツのボディウォッシュ「ラメランス」については、「お風呂上がりの保湿がいらない肌に」というキャッチコピーが気になっていた。こまかい仕組みはよくわからないのだが、肌の角質層にある、潤いをため込む組織「ラメラ」を壊さない成分になっているらしい。このキャッチコピーが本当なら、面倒なボディケアなしで肌が潤って、これ以上引っかき傷をつくらなくて済むようになる。まるで私のためにあるような商品!と思ったのだが、試供品で二日間試してみただけではあまり効果はわからなかった。とはいえ、もともと潤いの層が壊れて乾燥しているうえに、ぼりぼり掻きまくって肌を傷つけているわけだから、一日や二日ボディソープを変えたところでたいした変化があるはずもない。これもこれで、継続が大事ということだろう。

 結果的にラメランスでも肌は潤わなかったのだけれど、よかったこともある。無意識に鎖骨のあたりをボリボリ掻いて、掻いた指でやはり無意識に鼻の下をこすっていると、気のせいかとてもいい匂いがする。もう一度爪をかいでみる。やはりいい香りがする。昨夜こすりつけたラメランスの香りの粒が、肌をかきむしることでプチプチとはじけだし、ふわふわと肌から漂っているのだ。そのとき私ははじめて、商品名「Lamellance」にほのかに香る「fragrance」の影に気が付いたのだった。

 というわけで、今使っている牛乳石鹸がなくなったらLamellanceの購入を検討したいと思う。風呂上がりに肌を引っ掻くと、香水よりはずっと控えめで、それでありながら確実に幸福感をもたらしてくれる、そんな香りがふわりと漂いだす。鼻の下を右手の人差し指でこすると、爪の間に挟まった表皮の一部からLamellanceのホワイトフローラルが香りだす。

 だから癖ってやめられない。