モリノスノザジ

 エッセイを書いています

あたたかい冬

 テレビで昨日の福岡の最高気温は25度とか言っていて、それが福岡的にどうなのかはわからないのだけれど、北海道でもやはり雪ではなくて雨が降っていて、やっぱりこれはふつうではないのだろう。あんまりあたたかいので自分の感覚が信じられず、寒くもないのに暖房のスイッチを入れてしまう。実際に世界は寒くないので、エコモードに設定中の暖房は電源ランプが点くだけで一向にはたらこうとはしない。

 冬はあったかいから好きだ。こたつや毛布にくるまるとあったかい。それは春の太陽に照らされているときのあたたかさとは違う、冬に特有のあたたかさだ。寒さがあるからこそうまれる「あったかさ」というものが冬にはあって、私はそれが好きだ。

 しかし今のところ、毛布が活躍しそうな気配はない。去年も二枚あるうちの一枚しか使わないうちに冬が終わってしまったのだが、今年は驚くことに、いまだガーゼケットと掛布団、それに日に透かせば向こうに景色が見えそうなくらいうすぺらな毛布一枚で何とかなっている。自分自身の身体が寒さに強くなったのだ、というには心当たりがなさすぎるくらいには運動不足であるのだし、窓の隙間風対策が功を奏しているといってもそこまで効果があるのか疑わしい。ここ数日の天気予報を見ていてわかるとおり、この部屋だけでなくもっと広い範囲であたたかい冬であることも間違いなく原因ではあるのだろうけれど、毛布がいらないくらいベッドがあたたかい理由は、おそらくガーゼケットにある。

 ガーゼケットを購入したのは今年の夏のことだった。暑くて寝苦しい夜に掛布団の代わりとして使うためである。タオルケットほど軽すぎず、頑丈で適度に重みがあるところが気に入った。洗濯をしてもすぐ乾くところがいい。そういうわけで、ガーゼケットは真夏を過ぎ、上に掛布団がのってもそのままベッドのうえに居座り続け、とうとう12月になってもいまだに静かながんばりを見せている。12月の夜を毛布なしでなることを可能にしているのはおそらく、肌ざわりはさらさらでやわらかく、うすっぺらでよわよわしいこのガーゼケットだろう。

 今おもえば不思議なことがある。世界史でこう習った。オランダがオランダ東インド会社を設立した1602年以降、ヨーロッパ諸国は競うように世界へ漕ぎ出していった。そして、アフリカ大陸やアジア圏の都市を次々と占領すると、香料や香辛料、銀、コーヒー、茶、綿織物などをどんどんヨーロッパに持ち込んだという。ヨーロッパでの香料・香辛料ブームが下火になると、その後はインド産の綿織物やコーヒー、茶などの需要が高まっていく。当時インドに広大な植民地を得ていたイギリスは、インドから輸入した綿花を原料に綿織物の生産を始め、これがのちの産業革命につながっていくのだ。

 しかし、なぜ綿織物を?ほかのものが重宝された理由は何となくわかる。冷蔵庫がなかった時代、香辛料や香料は食品の臭み消しとして重宝されただろう。銀に関しては貴金属であるのだし、当時それが貨幣の原材料に使われていたのだとすれば、他の物品と交換可能であるという点で価値がある。コーヒーに関しては今だってカフェインの覚醒作用であったり、その味や香りが楽しまれている。じゃあ、綿織物ってなんだ?銀やなんかと同じ、ヨーロッパの「ほしいものリスト」に入るくらい価値のあるものだったのか?思えばこの先もずっと、イギリスはひたすら綿花を輸入していたような気がする。高校で世界史を習っていたときには何の疑問も持たずにいたけれど、なんだかちょっと不思議である。

 しかしこの疑問も、夏から継続してガーゼケットを使い続けてきた今ならわかる。夏は涼しく、冬はあたたかく。こんなことが毛織物にできただろうか?コットンなんて、やさしいだけが取り柄でつまらない、赤ちゃんを包むくらいしか用途のない布と思い込んでいたけれど、そりゃあ赤ちゃんも包むわけである。生活を翻ってみれば、いわゆるコットン生地以外にもたくさん綿は使われているわけであって、綿がなかったら生活のなかの布はいったいどうなってしまうんだろう。下着にシャツ、作業着、カーテン、ラグ…あれもこれも、綿でできている生活用品は気が付けば周りにあふれている。そう思うと綿はたしかに重要であるし、毛織物が中心だった産業革命以前のヨーロッパで綿織物が価値あるものとされたこと、いち早く綿織物の生産に目を付けたイギリスが、豊富な資金を得て産業革命をリードしていくその先の未来も納得な気がしてくる。ビバ綿織物、である。

 産業革命のその先に続く未来のなか、その歴史の発展の中で地球環境も大きく変わってきた。今年の冬があたたかいのはそういったいわゆる地球温暖化と関係があるのかどうかはわからないけれど、一方はあたたかいガーゼケットを生み出しながら、他方ではあたたかい冬がもたらされていること。そして冬は冬らしい、寒さがあってこそのあたたかさを失って、「暑い冬」になっていくこと。そうこう言っているうちに明日は今日よりずっと冷え込むようであること、なんだか世界はいろいろと複雑である。

 

 

今週のお題「2018年に買ってよかったもの」