モリノスノザジ

 エッセイを書いています

男はいつワックスを捨てるのか

 5月頃から、同僚がだんだんワックスを付けなくなってきた。それまでは固めのワックスを使って毎日ばっちり前髪を上げていたのに、ワックスなしのふさふさヘアで出勤する日が一日増え、二日増え、ついには一週間を通してスタイリングをしなくなってしまった。付けなくなり始めの頃はスタイリングをする時間がなかったのかもしれない程度に考えていたのだけれど、これだけワックスを付けなくなるということは、何らかの考えがあって付けなくなったのだろう。

 同僚は30代(後半?)と思われるけれど、そういえばおっさんはワックスを付けていないイメージがある(すべてのおっさんがワックスを付けないとは言わないけれど)。男性は青年からおっさんに差し掛かるタイミングでワックスを使わなくなるのだろうか?

 「おっさんになるとワックスを使わなくなる」説の説明としてすぐに思いつくのは、加齢で髪が減ったりしてワックスを使用できなくなるというもの。年齢が上がって社会的な立場が変わると服装や髪型も変わるだろうから、ヘアスタイルの変化が原因でワックスを使わなくなるのかもしれない。自分には全くそんな発想がなくて驚いたのだけれど、なかには「いい大人がワックスなんて」と思う人もいるらしい。確かにワックスで髪を立てるのは若者っぽい感じがする、かな?指で髪先をつねってツンツンに立てる髪型(最近もいるの?)は、確かに高校生っぽいかもしれない。

 けれどそもそも、すべての若い男性がワックスを使っているわけではない。ワックスを使わない層はおっさんになってもワックスを使わないので、「ワックスを使わないおっさん」のうちの一部はそもそもワックスを使わない層なのだろう。

 そしてもう一つの可能性として、今まさに「おっさん」と呼ばれるまさにその年代が「ワックスを使わない層」である可能性がある。いつからワックスが使われ始めたのかわからないけれど、ワックスを使わない世代がおっさんになり、ワックスを使わないおっさんになったという説。ワックスを使う世代がおっさんになったら、ワックスを使うおっさんが一般的になるかもしれない。

 などと考えているうちに2か月が経ち、気が付いたら同僚が再びワックスを使うようになっていた。4月には立てていた前髪を、少し伸ばして横に流している。なるほど、髪を伸ばして前髪を下すスタイルに変えたかったんですね。