モリノスノザジ

 エッセイを書いています

ほんの記録(12月)

 そういえば、ちょうどこれくらいの時期だったかもしれない。雪の降る日。鞄に本を詰め込んで、大学のバス停にやってきたバスに飛び乗った。ついさっき、卒論を学務に提出したところだった。

 

 駅のバスターミナルで降りて、長距離バスに乗り換える。はじめて行く場所なので、降りる場所を間違えないか気が気でなかった。能登半島の先っぽの、海に近い町で降りる。町、といっても、何もない場所だ。バス停に降りるとあたり一面は手品のテーブルクロスをひろげたみたいに真っ白で、気がつけば、さっき一緒に降りたはずの何人かの乗客の姿も消えていた。

 グーグルマップを頼りにたどり着いた冬の寂しい海を散歩して、古くて小さな宿にチェックインする。これから二日間、何をしても自由だ。

 

 鞄から本を出して、布団のうえに広げる。小説、図鑑、漫画、図録…卒論を書き上げるまでの間に買って、これまで読めずにいた本の数々だ。決してすてきな宿とは言えないが、いつでも温泉に入れて、黙っていても食事が出てくるだけでもう申し分ない。畳の部屋でごろごろして本を読み、好きなときに居眠りをして、好きなときに温泉に浸かる。幸せな二日間だ。

 

 このとき以上に幸せな本との時間は、なかなか出会うことができない。あの頃と比べればはるかに自由に本を買えるようになったいまでもだ。それでもまた本をひらく。このページのなかにある世界が、これから始まる本との時間が、これから忘れられない思い出のひとつになるかもしれないから。

 

 

 

武川忠『作品鑑賞による 現代短歌の歩み―斎藤茂吉から俵万智まで―』飯塚書店

 近代以降の短歌史を勉強したくて本を探しているのだけれど、なかなか思ったような本に出会えていない。アンソロジーとか、個別の歌人を取り上げた批評はたくさんあるんだけどな。

 この本も戦後から現代にかけての歌人を順に取り上げていくという感じで、それぞれの歌人がどういう問題意識を抱いて作歌をしたのかとか、後世にどういう影響を与えたのかといったことは書かれていない。ちょっと残念。

 

佐藤信夫ほか『レトリック事典』大修館書店

 図書館で借りて読んだあと、買わないままでいた『レトリック感覚』とあわせて購入。ことばや論証に関わる技法が全部つまっていて、例文とその分析もたっぷり載っている。ちょっと高かったけど、得したかも。

 

歌集ほか

 

その他

 

 12月に買った本も読み切らないのに気が早いかもしれないけれど、今年はどんな本との出会いが待っているのか楽しみだ。今年も素晴らしい本に出会えますように。

 

また読みにきてくれるとうれしいです!