モリノスノザジ

 エッセイを書いています

三浦雄一郎を真似して、真似しない

 プロスキーヤーで冒険家の三浦雄一郎さんが、今月18日、南米最高峰・アコンカグアへの登頂を目指してベースキャンプを出発した。三浦さんは86歳だ。日本を出発する前に行われた記者会見で彼は、「自分が挑戦し続ける姿を見て、同世代の人が『もっと頑張ろう』という気持ちになってくれるとうれしい」と話している。

 86歳と言えば、いかに社会の高齢化が進んでいるとはいえさすがに「おじいさん」と言っていい世代だろう。今回三浦さんが挑戦するアコンカグアという山は、標高が6960m、高所順応の難しさや、アンデス山脈特有の猛烈な強風の危険などから、入山者の登頂成功率は3割ほどといわれているらしい。その山に86歳の三浦さんが挑むのだから、もし登頂が成功すれば、いや、登頂を目指す三浦さんの姿を見て同世代はおおいに元気づけられるだろう。今の社会では65歳が定年ということになっているけれど、70代、80代になっても夢や目標をもって生きられるのであればすばらしいことだと思う。まだ高齢者でない世代にとっても、歳をとってもまだままだいろいろなことにチャレンジできると思えば未来が明るい。

 けれど、三浦さんの挑戦を表面的に受け止めて真似をするのはいいことじゃない。三浦雄一郎さんの挑戦は、日ごろのトレーニングにより現役並みの体力を維持していることに加えて、高所トレーニングなどゴールを見据えた適切な目標設定、綿密で柔軟な計画、医師や登山家・ガイドなど複数の専門家によるサポートがあってのものだ。「年齢に負けずに頑張る」という意識の面だけでなく、三浦さんが年齢に負けないためにどのような努力をしているのか、その部分を知りたいし真似したいと思う。

 平均寿命が長くなるにつれて、「生涯現役」という言葉をよく聞くようになってきた。しかし、年齢を超えるための努力に裏打ちされないのであれば、それは現実から乖離した無謀なスローガンに過ぎない。認知能力が落ちているのに免許返納を勧められても断固として応じない高齢者が、車を運転してコンビニに突っ込んだとして、「生涯現役って言うじゃないか」と言っても誰も耳を貸さないだろう。社会が変わっていくにつれて生き方や働き方についての考え方が変わってきている。今の高齢者世代、これから高齢になる世代は、長い老後をどう過ごすかという、今までの世代にロールモデルのない問題にぶつかっている。そんな世代にとって三浦さんの挑戦は一つの希望になるのだろうが、そんな三浦さんの挑戦を表面的に真似するのではなく、高齢者特有の問題をどう解消してきたのか、そんな、言葉にならない行動の部分を真似したい。

 今日、三浦さんの動静について新しい情報が入ってきた。現地で猛烈な風が吹き荒れているので、山頂へのアタックを2日間先延ばしにして、6000m付近で待機しているという。がむしゃらに歩き続けることだけが挑戦じゃない。三浦雄一郎を真似して、真似しない。三浦さんの挑戦を、これからの時代の老い方のヒントにできればと思う。