モリノスノザジ

 エッセイを書いています

連休を攻略せよ

 朝日新聞デジタルの記事によれば、来年のゴールデンウィークが10連休になることについて45%の人が「うれしくない」と感じているらしい。たしかに、みんながみんな手放しでよろこべるほど単純な話ではないんだろう。日給で働いている人は給料が減るというのもそのとおりだし、給料に影響がない人だって出勤日数が減ればその分平日にしわ寄せがくる。時期的なことを言えば、年度替わり直後の月末月初でバタバタしている職場も多そうだ。子どもがいる家庭は10日間ずっと子どもを庭で遊ばせてるわけにもいかないだろう。ライフ・ワーク・バランスという考え方や、日本人の有休消化率の低さが注目されている今日この頃、長期休暇の取得を政府が後押しするのはよいことでもある。一方では今回決まった10連休によって経済が活性化されるもことも期待されているだろうが、レジャーに出かける人がいればそれをもてなす人もいるわけであって、そういう人たちは逆に休めなくなってしまうという問題もある。

 というのはそこらじゅうで言われていることだけど、私だって私なりに、10連休というかつてなく長い休みを憂いてはいる。10日間も休みが続くなんて、社会人史上初めてのことだ。しかも、今回は盆でも正月でもない、純粋なる長期休暇である。親戚で集まって昼から飲み食いすることもなければ、家でついた大量の餅の世話をする予定もない。いったいどう過ごせばよいのだろう?

 長期休暇といえば「バカンス」。ああそうだ、「バカンス」をやればいいのだ。グアムとかハワイとかどこか南のほうの島へ行き、そして…あれ?よく考えたら「バカンス」っていったいどうやればいいんだろう?南の島に行って、そこで、ビーチに寝そべってカクテルを飲む?それともショッピング、といっても、単に休みが長いだけであって、その分収入が増えるわけでもないんだから。あまり散財もできないからショッピングをするにしてもつつましくしなくちゃいけないな。ビーチとショッピング街を往復する以外にはどういう過ごし方があるんだろう?クラブみたいなところで踊る…なんてのはちょっと向いてないのかも。なんて考えていると、バカンスというのが何をすることなのかよくわからなくなってきて、結局のところ、まあいつもどおりでいいか、って感じになる。

 私が常日頃めざしている最上の連休は、「家から一歩も出ない〇連休」である。けっしてなまけたいわけではない。考えてほしいのだが、出かけるためにはコストがかかる。顔を洗って身支度をして、目的地まで歩いていくその時間。交通費がかかる場合もあるかもしれない。たいした理由がないのであれば、また、でかけること自体が目的でないのであれば、出かける回数をできるだけ少なくすることは理にかなっている。つまり「連休を家から出ずに過ごす」というのは、連休をいかにして無駄なく過ごしきることができるかという「挑戦」なのだ。

 この挑戦にとって障害となるのは、なんといっても食料の調達である。連休に入る前からきちんと準備をしておかなければ、途中で食料が尽きて買い物に出かけるはめになる。食料のほかに、電池やトイレットペーパーなど生活に必要な物資の状況も確認しておく必要があるだろう。作戦を最後まで遂行するには、計画的に準備を行うこと、そして、準備した物資を適切に消費することが求められるのだ。そしてこれは、連休が長期化するほど遂行困難なミッションとなる。

 さらに、「飽き」や「欲」といった罠にも注意しなければならない。事前に準備した限りある食材で数日間を過ごすとなると、どれだけ工夫をこらしても「飽き」の問題が生じてくる。唐突にポテチを食べたくなることもある。こうした予想外の事態も想定にいれて準備をすることが望ましいのだが、想定外の事態とはまさに「想定外」なのであって、万端を期することはむずかしい。だから、連休を家から出ずに過ごすためには、作戦途中で生じるこうした煩悩を殺す精神力も必要だ。しかしこれもまた、家にこもっている期間が長くなればなるほど発生するリスクが高くなる。

 このように、長期休暇を家で過ごすためには高度な計画性に加えて欲望の適切なコントロールが必要となる。「家に引きこもって過ごす」のは怠惰なことではなく、むしろストイックといえるほどの緊張感を強いられる挑戦なのだ。

 だから、今年の10連休を「一日も家から出ずに過ごしたよー」なんていう人がいたら、あなたはその人を敬わなければならない。10日間も家から出ずに過ごすって、本当にすごいのだよ⁉仕事もバリバリできそうである。なんてったって、10日間の生活における需要と供給を完全に予測して、それをカバーする計画を立て、実行したということなのだから。

 いまのところ私は3連休、4連休といった短い連休ですら、家から出ずに過ごせたことはない。それができればとてつもない達成感が得られると思うんだけど。だから、10連休がやってくるまでにもっともっと鍛錬を積んでおかなければならない。そのためには、理論的なことももちろんだけど、やっぱり実践が一番だ。実際に連休を過ごしてみて、経験を積むことが重要である。というわけで私にもっと連休をください。