まぬけか。まぬけなのか、私は? 書棚を前に、頭を抱えている。頭痛の種はと言えば、本棚に並んだこの本の並びだ。以前この本棚を整理したのは、たしか三ヵ月前。つまり、たった今眺めているこの並びは、三ヵ月前に何らかの意図をもって並べた結果である。しかし、これがどう見たってまぬけが並べたとしか思えない並びなのだ。同じ著者の本がバラバラの位置にある。隣り合う本どうしに統一感がない。背の高い本と、背の低い本とを同じ列に並べているため、その分スペースにロスがある。ゲームソフトやら、使ってない眼鏡ケースが紛れている。などなど。
あきれた私は改めて本を並べ直すことにして、しかし、しばらくしてはたと気がつく。はたして完璧な本棚などあるのだろうか、と。
著者で揃えれば、出版社がばらばらになる。スペースのロスをなるべく減らすべく並べると、頻繁に読みたい本ほど取り出しにくい場所に並んでしまう。背表紙の色で並べれば、ジャンルや著者でまとめるのはあきらめなければならない。あれだけまぬけに見えた並びも、あれでいて、そのときありったけの知恵を絞った結果なのだということが、だんだんとわかってくる。しかし、諦めてはいられない。完璧な本棚はなくとも、完璧に近い本棚はあるのだ。そうして並びなおした本棚を見て、きっと三か月後の私は思うことだろう。
「は?まぬけなのか?」
内澤旬子『世界屠畜紀行 THE WORLD’S SLAUGHTERHOUSE TOUR』角川文庫
6月に読んだ『ベジタリアン哲学者の動物倫理入門』に関連して、(id:philia0)さんが紹介してくださった本。ひどくカルチャーショックを受けた。
その理由はふたつ。ひとつは、私がこの種の紀行文・フードルポをこれまでほとんど読んでこなかったこと。もうひとつは、動物を殺して食べるという行為に対する著者の考え方ゆえだ。
『ベジタリアン哲学者の動物倫理入門』は、タイトルからもわかるとおり、ベジタリアンである著者がベジタリアンの立場から書いた本である。決して薄い本ではないけれど、主張していることはいたってシンプルだ。曰く、人間に人権があるのと同じように、動物にも基本的動物権がある。したがって、動物を殺したり苦しめてはならない。畜産や愛玩動物(ペット)の飼育など、さまざまな問題が検討されるときには、常にこの主張に立ち戻ってくることになる。
『世界屠畜紀行』の著者が、動物を殺すことや動物を苦しめることを容認しているわけではない。彼女もまた、屠畜場で電気ショックを流されてわななきながら処理されていく豚を見て、心を痛める。しかし同時に、そういった現実をまっすぐに見つめたうえで、そのうえで肉を食べることを選ぶのだ。
だけど、まったく抵抗させないで動物を殺すことができるだろうか。ニコニコ笑いながら「どうぞ殺してください」なんて言う動物なんぞいるわけがない。植物だって目鼻や声がないだけで、刈り取られるときに泣いてるかもしれないし。肉をおいしく食べているんだからしょうがないじゃん。見ればショックを受けるのも確かだけど、そのことをまったく知らないで肉を食べているのは、もっと嫌だ。しっかり眺めて頭に叩き込んでから、バリバリ肉食ってやる。
「動物を殺すのはいけないことなのかもしれない」と思いながらも肉を食べることをやめないのは、ただ単にそういうそぶりをしているだけのようにも思える。動物たちがどうやって肉になるのかをしっかり見て、そのうえでたくさん感謝して肉を食う。そういうやり方があること、そしてそれがどういうことなのかを、この本を読むまでちゃんとわかっていなかったような気がする。
國分功一郎『暇と退屈の倫理学 増補新版 』homo Viator
文字通り、「暇」と「退屈」をテーマとした本。暇?退屈?そんなものが倫理学の主題になるのだろうか?と思いつつ手に取ったのだけれど、思いのほか面白い。
私たちの生活は豊かになって、余裕ができ、その時間に好きなことをするようになった。しかし「好きなこと」とはいったいなんだろう?私たちは本当に好きなことをしているのだろうか。それは、他人や社会から与えられたものではないのか。私たちは、暇のなかでいったいどう生きるべきなのか。それがこの本の主題である。
哲学の本だけれど、哲学のことをよく知らない人でも、ゆっくり読めば大丈夫だと思う。自分もそうだ。前半では主に歴史的な見地から「暇と退屈」についての考察が進められ、後半からハイデッガーの議論を参照しながらの哲学的考察がはじまる。毎日少しずつ読みすすめるのが楽しみ。
美術史関連
- 池上英洋『美少年美術史 ──禁じられた欲望の歴史』ちくま学芸文庫
- 池上英洋『美少女美術史: 人々を惑わせる究極の美』ちくま学芸文庫
- 池上英洋『残酷美術史 ──西洋世界の裏面をよみとく』ちくま学芸文庫
- 池上英洋『官能美術史: ヌードが語る名画の謎』ちくま学芸文庫
- 深田麻里亜『カラー版-ラファエロ―ルネサンスの天才芸術家』中公新書
- 山本浩貴『現代美術史-欧米、日本、トランスナショナル』中公新書
- 辻惟雄『奇想の図譜』ちくま学芸文庫
来月に美術検定の試験を控えているので、美術関係の読み物を増やしていこうと考えてのラインナップ。池上英洋さんの美術史シリーズは、1項目数分で読み終えられるので、通勤中などのちょっとした時間の読み物として重宝する。どれもエロティックな絵画が表紙に使われていて、本屋で買うのがちょっと恥ずかしかった。
歌集ほか
- 久石ソナ『サウンドスケープに飛び乗って 』書肆侃侃房
- 三田三郎『鬼と踊る』左右社
- 「短歌研究2021年9月号」短歌研究社
- 穂村弘『短歌の友人 』河出文庫
- 佐藤志満編『佐藤佐太郎歌集 』岩波新書
三田三郎さんの歌集、内容がおもしろいと結構評判のよう。歌もそうだけど、自由に伸び縮みするような韻律がいいなあと思う。こんな歌が収録されています。
ずっと神の救いを待ってるんですがちゃんとオーダー通ってますか
気をつけろ俺は真顔のふりをしてマスクの下で笑っているぞ
目覚めれば現実起き上がれば現実ちょっとお茶でも飲めば現実
パーティーで失言をした大臣のその時はまだ楽しげな顔
漫画
- 高津カリノ『ダストボックス2.5 (6) 』ヤングガンガンコミックス
- 高津カリノ『ダストボックス2.5 (7)WEB版』ヤングガンガンコミックス
- 高津カリノ『ダストボックス2.5 (8)WEB版』ヤングガンガンコミック
最終巻発売と思ったら、おまけのTwitter漫画分2冊も同時発売でした。すごいな!うれしい!
その他
- 三島由紀夫『金閣寺』新潮文庫
- 上田信『人口の中国史――先史時代から19世紀まで』岩波新書
- マイケル・ローゼン『尊厳: その歴史と意味』岩波新書
- 土井伸彰『個人的なハーモニー ノルシュテインと現代アニメーション論』フィルムアート社
- 土井伸彰『21世紀のアニメーションがわかる本』フィルムアート社
- 岩淵悦太郎編『悪文 伝わる文章の作法 』角川ソフィア文庫
- 渡辺知明『文章添削の教科書』芸術新聞社
しばらくブログをサボっていたにも関わらず、ここに挙げたなかにもまだ積み残しがある。冬になったら家にこもって、ゆっくり本を読みたいな……と思ったのだけれど、家にいるのはいつものことだった。いったいどうしてこんなに積み残しているんだろう?
今月は、11月の美術検定に向けてアート関係の本をしっかり読む予定。いままで、好きで、好きなように楽しんできたいろいろなことについて、ちゃんと知識もつけていきたいなという気持ちになってきている。
そして、1月?2月から記録をつけてきてようやく小説がリストに現れました。分野に関わりなく、もう少しいろいろ読むようにしないとなあ。もともとは「月3冊以上読む」が目標で、そのなかに新書と古典を少なくとも一冊ずつ入れる……とか、そういうルールがありました。美術検定が終わったら、もう少し本の買い方も考えよう。
今週のお題「今月の目標」