モリノスノザジ

 エッセイを書いています

ほんの記録(5月)

 一人暮らしを始めてもう10年以上になる。15年未満、それ以上の詳細を数えるのは面倒だからやめておく。思えばこの間、恋人と同棲…することもなく、結婚。することもなく、引越しは3回くらいしたけれど、まあ10年以上15年未満の間に3回なのだから特別多いというわけでもない。生活環境が大きく変わるような出来事が取り立ててないまま、この10年以上15年未満を過ごしてきたわけだけれど、そうは言っても生活の細かいディティールは変わるもんだな。

 最近は21時を過ぎたらPCもテレビも携帯も電源を切って、ベッドの上で白湯を飲みながらごろごろして本を読む。それが幸せ。こうする前まではどうやって過ごしていたかわからないくらい、この暮らしがしっくりきている。本を読む時間を暮らしのなかにちゃんとつくると、本が読みたくなってくる。

 これまで2カ月分を1記事にまとめていましたが、6月は毎年たくさんの本を買うので今回は5月。この一か月の、ほんの記録。

 

 

 孫呱『藍渓鎮 羅小黒戦記外伝(1)』

  中国のアニメーション映画『羅小黒戦記』のスピンオフ漫画。『羅小黒戦記』は妖精(個人的には「精霊」のほうがピンときますが)と人間との共存を描いた物語なのですが、外伝である『藍渓鎮』では人間VS自然という構図、あるいは人間も自然も一緒にハッピーという世界ではないもっと広い世界観が描かれているように感じた。

 元が中国語の横書きなので?、漫画だけど左からめくって読む。新鮮。

 スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ『戦争は女の顔をしていない』

  数カ月前にコミック版が書店の入り口近いところに平積みになっているのを見て、気になっていた。戦争に従事した過去を持ちながら、その経験についてかたく口を閉ざす女性たちを著者が訪ね、聞いた話を一冊にまとめた作品。

 まだ数十ページしか読んでいないのだけれど、どの人が語る話も生々しい。女だと思って半人前扱いする男たちの前で立派な射撃訓練をやってのけて、驚く彼らの前で友達と笑い転げたとか、戦争に出かける朝に母親が何度も何度もキスをして見送ってくれたとか。「女が語る戦争」にいったいどんな意味があるのか、男が語る戦争とは何がちがうのだろうかと考えながら読んでいる。これまでにいろいろなところで語られてきた「戦争」がすべて男性目線で語られてきた戦争であるとすれば、私のなかにある戦争のイメージもまた一面的なものに過ぎないのかもしれない。

八杉龍一編『ダーウィニズム論集』

 ダーウィニズム、というかダーウィンの理論のことを、恥ずかしながらきちんと理解していない。なんとなくガラパゴス諸島的な…進化論的な…的なイメージがあって、一方でこの思想が優生思想の持ち主に誤ったやり方で利用されたりもしているんでしょう?みたいな浅い認識で、つまるところ私はダーウィニズムを優生思想と同一視する人と同じか、それ以下くらいの知識しか持ち合わせていないのだ。

 この本には、ダーウィンが『種の起源』を著した1859年からおおよそ50年間の間に起こった論争を追うようなかたちでいくつかの論考がまとめられている。論考らしく難しい言い回しも多いけれど、がんばって読もう。

 橋爪志保『地上絵』

 帯に書かれていた「I am a 大丈夫 ゆえ You are a 大丈夫 too 地上絵あげる」という短歌の、言葉の壊れかた、そして「I am a 大丈夫」「ゆえ」「You are a 大丈夫 too」という論理の壊れかたに衝撃を受けて衝動的に買った。解説は宇都宮敦さん。宇都宮敦さんの歌も好きだから、この歌集もきっと好きな歌集のなかの一冊になると思う。

地上絵

地上絵

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 平岡直子『みじかい髪も長い髪も炎』

 どうしてないのだろう、と思っていた平岡直子さんの歌集。やっと出るんだって、予約購入した。平岡直子さんの詠む歌は自分の詠む歌からはすごく遠くて(もちろん、こうやって実績のある歌人である時点ですでに遠いのだけれど、それ以上に)、これは自分にはつくれないなあという気持ちと、それゆえに憧れのような気持ちを抱えながら読んでいる。

 岡野大嗣、木下龍也監修『新短歌教室の歌集』

 岡野大嗣さん、木下龍也さんを講師とする短歌教室から生まれた60人の360首を収録した歌集。帯に「この歌集は六十色入りの色鉛筆。カラフルな読書体験へようこそ。」という岡野大嗣さんのコメントが書かれているのだけれど、少しずつ読みながら、ページをめくるごとに世界が変わるような新鮮さがある。一首評が読んでいて勉強になる。

 

 月末時点で読み終わっている本が少なくて、感想というよりは買う動機ばかり書いている気がする。がっかりさせていたらすみません。

 でも、これを書くようになってからは個人的に「ハズレ本」を引く確率がすごく低くなっているように感じる。明確にハズレである本なんてそうそうないのだけれど、自分が読みたい気持ちと選書とがぴったり合っているということだと思う。