モリノスノザジ

 エッセイを書いています

極まりし運動嫌いのためのメソッド

 今週のお題が「運動不足」ということで、自粛により運動の機会を失ったはてなブロガーたちがゾンビのように集まり、また、そんななかでも身体を動かすことをやめなかったブロガーたちが「手軽に始められる運動」とやらを伝授するべくやたらと甘ったるい声を上げている。

 しかし、私にコロナなんて関係ない。コロナなど関係なく、もとから運動不足である。というより、運動嫌いとまで言ってもいい。そんな筋金入りの運動嫌いを動かすにはちょっとやそっとのことではとても足りやしない。「お手軽に始められますよ♪」だなんて言葉でジョギングやストレッチを勧められても、甘い言葉になびいたりはしないのだ。

 

 まず、家の外には出たくない。屋外は雨が降ったり暑かったりと、常に運動に適した環境であるとは言い難い。これから雪が降ればなおさらだ。ジョギングどころの話ではない。

 それでも少ないやる気をかき集めてなんとか外に出てみれば、すでに何十キロも走っていそうな屋外のプロや散歩中のおじさんにジロジロとみられる。もしかして、その恰好で走る気でいるの?へたくそなフォームだなあ。

 

 さらに言えば、運動のためにわざわざ外に出ることがコストである。それまで着ていた服から運動用のジャージやなんかに着替え、靴を履き替えて外に出る。玄関を開けてその場ですぐに走りだすというわけにはいかないから、アパートの階段を降りたり、駐車場を横切ったり、なんなら運動ができる河原まで歩いていかなければならない。普段運動をしない身としてはこれだけでぐったりだ。ドアtoですぐさま運動ができるならまだしもやる気がするものを、運動するまでにこれだけの運動をしなければならないのである。だからまず、家の外には出たくない。

 

 さらに言うと、立ちあがりたくない。起き上がりたくない。腹筋にしてもスクワットにしてもとにかく疲れるものだから、どうにかして寝ながら運動するわけにはいかないだろうか?寝ながら運動することが可能になれば、人類は新しい扉を開くことができる。寝たきりのご老人もベッドのなかで筋力を低下させることなく、気分のいい日にはベッドからシャキッと立っていつでも散歩に出かけることができるし、忙しいサラリーマンが忙しい時間を縫ってわざわざジムへ行くこともなくなる。深刻化する子どもたちの体力低下にも歯止めがかかる。なにしろ寝るだけでいいのだ。

 

 しかし残念ながら、今の私たちは寝ながら運動することはできない。ならば、運動するということに対して、運動したくないという気持ちを上回るほどの対価を与えることによって運動へのモチベーションを上げることはできないだろうか?

 

 例えばこうである。私が道を歩いている。ちなみに、これはコストゼロの歩行である。つまり、このためにわざわざ家の外に出てきてしている歩行ではなくて、仕事から帰る途中だとか、それがなくてもするような歩行である。

 歩いている私は、路上に寿司を見つける。寿司が好きな私は、駆け寄ってその寿司を食べる。おいしいサーモンを堪能して喜んでいると、数メートル先にイクラの軍艦が見える。私は数メートル歩き、イクラの軍艦を食べる。もしかしてと思って顔を上げると、さらに数メートル先に鯛のにぎりがある。私はよろこんでその方向へ歩いていく。そのようにして寿司をどんどん食べるうちに、私は運動をしてしまっているのだ。

 

 よく考えると、寿司が回転するのになぜ人間は椅子に座って待っているだけでよいというのか。人間だって回転すべきである。待っていれば寿司がテーブルまでやってくるなんて幻想は捨てるべきなのだ。人間は寿司を迎えに行かなければならない。

 

 というわけで、私は寿司を迎えに行った。といっても、現実の世界で路上に寿司はない。したがって、私は寿司屋まで行くことになる。わが家から二駅離れたまちにあるその回転すし屋は、半年前とずいぶん様変わりしていた。カウンターは飛沫防止パネルで一席ずつ仕切られ、寿司はレーンを回らず、タブレットで注文する。食事は箸で。握り手ももちろんマスクをしている。私はそこでサーモンと真いか、にしん、鯛、ぶり、まぐろに鯖の握りとイクラの軍艦を食べた。どれも舌がとろけるくらいおいしかった。

 

 数皿を平らげて回転寿司屋を後にすると、帰りは電車に乗らず家まで歩いて帰った。路上の寿司を拾うことができなかった分、まとめて歩くのだ。思ったよりも自宅が遠く、なんと一時間も歩いてしまう。

 その駅は普段の通勤ルートの途中にある駅で、したがって、毎日二駅早く降りて残りを一時間かけて歩くということもできると言えばできる。しかし、私はそれをしない。今日そうしたのは、他ならない寿司があったためだ。運動嫌いを運動させるにはこのくらいの見返りが必要なのである。

 結論を簡単にまとめると、世界に住むすべての運動不足な人びとを救い、地球人の健康寿命を延ばし、政府の財政を健全にするためにも、世界には寿司が必要である。世界の人びとに寿司を。世界の路上に寿司を。寿司 save the Earth。寿司!寿 司!寿  司!

 

今週のお題「運動不足」