モリノスノザジ

 エッセイを書いています

ここは金星人のすみか

 宇宙人と言えば、うすい灰色の人型で、頬はこけて顎がやたらととんがっていて、白目のない大きな瞳、小さな口。触れれば硬くて乾燥していそうなあいつ。それから、帽子のようなぐんにょりした頭(?)から何本も触手を生やし、さわればやわらかくてしっとりしていそうなあいつ。

 

 それにしたってどうして火星人にだけこれだけ確固とした姿のイメージが与えられているのだろう?と調べてみたら、どうやら理由があるらしい。

 火星の表面には人工的につくられたような溝があって、発見された当時それはとても大きな運河だと考えられた。こんなに大規模な運河をつくることができるような生き物は、きっと地球人よりもずっと高い知能をもっているのだろう!ということで、火星人に大きな頭が、そして、火星は重力が小さいから、身体はヒョロヒョロでも大丈夫だろう!ということで、何本もの細長い触手が与えられたという。

 それにしたって、グレイにしろ火星人にしろ、私たちが知っている「生き物」のかたちを大きく逸脱できないところは、想像力の限界というところか。

 

 かく言う私だって偉そうなことは言えない。何しろ私が見ている「金星人」は、まるで地球人に似ている。うすい褐色の人型で、体毛は薄く、そのかわり頭部にもさもさと毛が生えている。顎はやや尖っていて、白目のある眼がふたつ。触れればおおむねやわらかくてすべすべしたこいつ。…つまり、私のことだ。

 

 「この業界はやたらと火星人ばかりが集まるんです」と、知り合いのデザイナーが何度も言うものだからだんだん気になってきたのだ。と言っても、彼の周りにやわらかくてぐんにょりしたあいつが何人も集まってきているわけではない。六星占術の話だ。

 六星占術では、その人の運命を土星、金星、火星、天王星、木星、水星の6つの運命星に分けて占い、それぞれの運命星を持った人を土星人、金星人、火星人、天王星人、木星人、水星人と呼ぶ。

 これらの星人にはそれぞれ特徴があるらしく、ネットで調べた情報によると、火星人は「感性が鋭く芸術的センスの持ち主」とある。クリエイティブ業であるところのデザイナーのまわりに火星人が集まってくるというのも、六星占術を信奉する人に言わせればごく自然なことなのかもしれない。

 

 自分の運命星を知るのは簡単だ。運命星は生年月日で占うことができる。インターネットで「六星占術」を検索すると上位に出てくるページに自分の生年月日を入力して、ボタンを押せば、はいお手軽。3秒で自分が何人なのか知ることができる。

 ちなみに私は金星人マイナスだった。なんだかよくわからないけれど、同じ星人でもプラスとマイナスに分かれるらしい。

 マイナス、という響きだけでなんだかがっかりしてしまう。それに加えてがっかりなのは、金星人マイナスに関する説明だ。

 金星人に共通する自由で好奇心旺盛な面に加えて金星人プラスが「流行に敏感でセンスがある」とか「前向きで行動的」なんて言われている一方で、金星人マイナスは「お金にルーズで同じ失敗を何度も繰り返す」とか「不倫に走りやすい」なんて言われていて、占いだと分かっていてもへこんでしまう。細木数子が嫌いな人のことを金星人って呼ぶことにしたんじゃないかって思うくらいだ。

 

 占いというものをどう捉えたらいいのかはわからない。占いをされる側の単なる心理的作用なのか、もし占いがなんらかの真理を捉えられるのだとしたらそれはどう説明されるのか。

 もちろん、占いの力が近代科学で説明できないからといってすべての占いがインチキだということにはならない。科学は、人間が世界で起きていることをどうにか理解しようとあれこれ考えてきたなかで、今のところボロを出さずになんとかやっている仮説のまとまりに過ぎない。

 現代に生きる私たちが錬金術を信じていた昔の人たちのことを笑うみたいに、いつか科学を信奉する私たちが笑われる日が来るかもしれない。そして、占いのようなものが科学で説明できる世界の外側で、科学には説明できないことをうまく説明しているという可能性だってあるのだ。

 

 と言っても、占いは天気予報みたいにはっきりしたことは言ってくれない。六星占術だって言ってることは「今月はうまくいかないよ!」とか「来年は身体に気を付けてね!」とかその程度のことだ。もっともそれは、私が無料で得られる情報しか見ていないだけかもしれないけれど。

 

 それでも自分が金星人だと言われてなんとなくすっとしたのは、金星人があちこちでやたらと自由人だの奔放だの言われていることだ。正直なところ、私が自由奔放だなんて、はじめは何かの言いがかりじゃないかと思ったくらいだけど、いやいや、ほんとうはフリーダムだからきみ、って言われ続けると、これまで責任感で押さえつけてきた部分がすっと解き放たれるような気がする。自由でしょうがない、私は金星人なんだから。って、今まで我慢してきたことをちょっとだけ諦めてみる。

 ここはそんな金星人のすみか。