モリノスノザジ

 エッセイを書いています

平成の苺大福

 ガチャガチャを見かけるとついつい引き寄せられてしまう。いまでは多くのマシンで価格が200円、なかには300円や500円に設定されているけれど、昔は100円のものがほとんどだった。小学生のころ、ゲームショップや本屋の店頭に置かれたガチャガチャになけなしの百円玉を差し込んで、どきどきしながらレバーをまわしたことを覚えている。そのわりにガチャガチャを引いて手に入れたはずのグッズのことはちっとも思い出せなくて、それは、私がガチャガチャの商品よりもガチャガチャそれ自体に惹かれていたことを示しているのかもしれない。なにが出てくるかわからないどきどき感、レバーをまわすときのすこし引っかかるような手触り、音。どうしてもほしくてたまらないトイなんてなくても、ガチャガチャはそれだけで魅力的だ。

 

 そういうわけでいまでもガチャガチャを見かけるとついまじまじと見てしまう。寿司ネタを模した形のキーホルダー、猫用の帽子、恐竜のフィギュア。あいかわらず、誰が買うんだかちっとも見当がつかないような商品ばかりのラインナップだ。そう言いながら私もときどきは財布から百円玉を取り出していそいそと投入口へ差し込むのであって、まあどこかしらに需要はあるのだろう。

 

 そんなことを考えながら今日も買い物帰りにマシンをチェックすると、新しいマシンが入荷されていた。その名も「おくすり袋ポーチ」。ガチャガチャによくあるペラペラのポーチで、表面には病院で処方される薬袋を模したデザインが印刷されている。病院の薬袋同様、氏名や服用のタイミングを記入する欄だってある。おまけにどうやら人気商品らしく、『再入荷しました』のPOPまでついている。

 困惑した。もちろんジョークグッズなのだろう。「指定ごみぶくろポーチ」とか「ばんそうこうマグネット」みたいなジョークグッズを面白がって購入するような、箸が転がってもおかしい年ごろを対象とした商品なのだろう。だが私の脳裏には、リアルに薬の管理を必要とする世代がこのガチャガチャをまわす光景がちらついてどうしようもなかった。幼いころからガチャガチャに親しんできた世代も、とうとうそんな年ごろになる時代か。これからは「ちいさい文字がよく見えるルーペ」とか「昭和のなつかしマスコット」がカプセルに納まるようになるのか。ちいさなカプセルトイに時代の流れを垣間見たような感じがした。

 

 変わったと言えば苺大福もそうだ。苺が露出している形の苺大福を私が初めて見たのは10年くらい前だったと思う。表面にぱっくりとあいた切れ目に苺が挟まっている。トッピングされた黒ゴマは瞳のようで、まるで丸い形のキャラクターが苺にかぶりついているような姿がかわいらしかった。当時はごくわずかな店しかそういった形の苺大福を製造していなかったのだけれど、今となってはいろいろなお店で売られている。こういう変化って、SNSの発達とか、それこそ「インスタ映え」みたいな文化が生まれたことが影響しているんだろうか。苺が牛皮と餡に包まれた、あの苺大福を、平成の苺大福と呼ぶ日がいつか来るのかもしれない。