モリノスノザジ

 エッセイを書いています

アダルトが開花する

 連休明けてさいしょの二連休にさしかかったいま、10日間の長さをはじめて感じる。7日間分の埃を掃除機で吸い取り、洗濯かごの衣類を洗って干して、ベッドカバーを整え、風呂にトイレに洗面台の掃除。日曜日はアイロンがけと料理の作り置きで一日の半分が終わってしまう。二連休では純粋な休みに充てられる時間はそれほど多くはなくて、それに比べればなんて恵まれた10日間だっただろう。

 10連休は長すぎるという意見も世の中にはあって、いくつかの点においては私もそれに同意する。けれど、自分自身が過ごした10連休、その日々について言えば、いま思い出してもふしぎなくらい過不足なくぴったりとしていた。時間をもてあますことも、時間がないとあせることもない。ほぼ毎日平日と同じリズムで寝起きして、やるべきこととやりたいことをやり、頭も足もはみださなかった。与えられた時間を正確に見積もって消費した感覚があって、それは10日間という時間の長さとは別に、過ごし方の性質としてなんとなく納得のいくものだった。

 

 連休後半の夕方は河川敷を散歩して過ごした。公園の木々はまだまるはだかで、そんななか、芽吹きを待つ多くの草花を尻目に桜の花は満開を迎えていた。花弁が白いのやピンクなの、細い枝がかなり地表に近い部分から枝分かれしているの(ほんとうに桜だろうか?)や、ごろんとしたいくつもの花がかたまっているの。花びらを一枚ずつ散らす木があれば、ごろごろとしたかたまりのまま花が落ちている木もある。花見と言えば遠くからながめるのもいいけれど、木に近寄ってみてみるのもなかなか乙だ。

 

 すごくエロい桜が近所にある。赤黒く濡れた花柄。淡く色づいた子房はふっくらとふくらみ、繊細な産毛が陽の光を浴びてきらきらと輝いている。赤紫色のがくに支えられておずおずと開いた5枚の花弁は、しゃりしゃりと透きとおる光沢を放っている。花の近くには芽吹いたばかりの葉が何枚も連なっていて、赤いような緑のような微妙な色味。羽化したばかりのさなぎのように、つやつやと光に濡れている。桜の花に魂を取られた人のように、夢中になってどんどん顔を近づけると、ほんの一瞬だけかすかに香りがする。また嗅ぎたくなって花を近づけてももう香らない。こうしているうちに、私はほんとうに桜に魂を取られたようになってしまう。

 桜が載っている図鑑で探してみるのだけれど、結局あの桜がどんな品種の桜なのかはわからずじまいだった。図鑑は、資料として撮影された鮮明な写真で満たされている。もちろんそれぞれの品種ごとに接写した花の写真が掲載されていて。

 …え、エロっ…。ドエロっ。こんなにドエロい本が普通に本棚に置かれていていいものか。よく考えたら花なんて、おしべとめしべをひとつにつつみこんだひとかたまりなのだ。うむ。それならばこれほどエロくても納得が…、いや、いかない。あの桜には、そこらに咲いている花々を超えた破壊的エロさがあるのだ。

 

 そんなエロ桜もいつのまにかすっかりと花を散らし、結局私はあの花の名前を知らないまま今年も春を終えようとしている。心のなかに、あの花がずっとすみついたまま。