モリノスノザジ

 エッセイを書いています

せかいは文字であふれてる

 ふと気になって書棚から取り出したのはロゴづくりの本。ロゴのことはよく知らない。そもそもロゴってなんだろう?Googleの検索画面を開くと表示されるあのカラフルな文字。アディダス製のジャージの胸元についている「✓」やスタバの人魚は文字じゃないけどロゴなのだろうか?いろんなかたちのロゴがあるけれど、それはどうしてそのかたちでなければならなかったのだろう?どういう意図がこのロゴには、込められているのだろう?普段の生活のなかで私はあらゆるロゴを目にしているのに違いないのに、それについて知っていることはなにもなかった。

 

 平日に図書館で調べ物をするのは一日30分と決めている。続きが気になっても本は借りない。はじめは「たった30分」と思っていたのだけれど、その「たった30分」で世界は変わる。それを知ったのがこの、ロゴづくりの本だった。

 えらんだのは甲谷一著『たのしいロゴづくり』。はじめに、英文・和文それぞれについて標準的な6種類のスタイルを提示し、それらがもたらすイメージを説明する。次に、基本のフォントを加工してロゴへと変身させるためのテクニックを紹介していく。最後に、実際に著者がクライアントから依頼されてつくったロゴの制作過程にもページが割かれている。

 文字をロゴにするためのテクニックは、ひとつのページにひとつずつ、実例も合わせて紹介される。文字の一部をカットする。重ねる。一部に色を付ける。アンバランスにする。一文字を大きくする…あんまりにもシンプルに説明されているので、素人でも簡単につくれそうな気がしてくる。

 こうしたテクニックを使いこなしてコンセプトをうまく表現すること、それが難しいことなのだろう。でももしかしたら、「ロゴ」を名乗るために必要なことはあんまり多くないのかもしれない。文字の一部に装飾がついたあの看板表記も、手元のパンフレットの見出しも、よくみたらこの本で紹介されたテクニックを使っている。そう思って街を見渡すと、あらゆるところに文字がある。喫茶店の看板、ビルの上の企業広告、お菓子のパッケージ、ペットボトルのビニール、ティッシュの箱、辞書の背表紙、炊飯器のボタン、食器用洗剤のシール。

 

 ロゴのことはよく知らなかった。それに、街にこんなにも文字があふれてるということにも気づかなかった。「たった30分」で、世界は変わるのだ。

 

たのしいロゴづくり -文字の形からの着想と展開

たのしいロゴづくり -文字の形からの着想と展開