モリノスノザジ

 エッセイを書いています

アイドルの作業服

 事務職員だけれど、職場では年中作業着を着ている。インクで服が汚れるからとか、冷房で冷えるからとかそれらしい理由はいくつでも言えるが、実のところ、作業着を着る人のコスプレをしているのである。

 作業着を着ている人が好きだ。それも、ぜんぜん汚れ作業なんてしなさそうな事務員が着ているのがよい。市役所の窓口でシャツ&ネクタイの上に着用している若い男性などさらによい。色がくすんだブルーとか、鼠色とかさえない色だともっとよい。

 作業着に関わらず、制服を着ている大人は好きだ。たいして洋服が好きなわけでもないのに制服だけは大好きで、街中で警備員や警官、受付嬢、自衛隊員などを見かけるとついつい目で追ってしまう。暇な時間をみつけては軍服図鑑をながめている。それに、一部のアダルトたちの間で好まれる「コスプレ」やアイドルが着るステージ衣装のデザインのことを考えると、私に限らず制服好きな人ってそれなりにいるのじゃないかという気もしてくる。

 アイドルと言えば、アイドルの衣装もやっぱり興味をひかれる。グループ全員が同じ衣装を着ているかと思いきや、よくみると一人ひとりわずかにデザインが異なっていたりするともうたまらない。この子はちょっとラフな感じに着こなしているんだなあとか、この子はいつもかっちりした感じなのかなあとか考えながら、コマ送りで衣装を見てみたくなる。当然ながらアイドルにとって衣装も演出の一つであり、一人ひとりに合わせた衣装を着ることで彼/彼女らはアイドルとしての彼/彼女らになる。衣装を着ることで社会的な役割を「着る」という意味では、ステージ衣装はアイドルの制服といえるだろう。

 身につけることで「人」を社会のなかの一つの「役割」に変えてしまうのも制服のふしぎなところで、そんな、布の向こう側にある「役割」もまた制服を特別にしているのかもしれない。