モリノスノザジ

 エッセイを書いています

眼鏡をえらぶ人はかわいい

 眼鏡の調整が終わるのを待ちながら、店内の客をながめていた。平日の昼間だというのに、おもったよりも客がいる。眼鏡屋なのにな、なんて自分のことを棚に上げて考えていると、目の前のカウンターで女性が眼鏡を選び始めた。
 はじめに丸縁の眼鏡をかけてみる。色はブラウン。あ、それすっごくいい。一本目からすっごくいい。いまっぽくておしゃれで、似合ってるよ。あれ?今度はもうちょっと黒っぽいのをかけてみるんだ。…あー、そっちも知的な感じがしていいかも。次はもうちょっと四角っぽいの?あー、いいねいいね。でも私はさっきの丸っぽいのがいいかなー。あ、お兄さんもそう思う?まあ正直なところ一本目も二本目も三本目もそうたいして変わんないんだけど、あーでもやっぱり今手に持ってる二本目のより、最初にかけたやつのほうがよかったかなー。すっごく似合ってたもん。…あ、あ、あ!やっぱり?そうだよね?よかった、それが一番いいと思ってたんだ、って、なんだか実況しちゃったりして。
 他の客もそうなのだが、眼鏡を選ぶ人はかわいい。はたから見ればどれもたいして変わんないのに、一生懸命自分に似合う眼鏡を探してるのがかわいい。一応言っておくけど、決して馬鹿にしてるわけじゃない。自分もそうだし。
 なんだかこれは、まったく関係のない誰かが恋をしている姿をみるのと似ている。メールの末尾にハートマークをつけるかつけないかで延々と悩んでいる人はどうしようもなくかわいくて、眼鏡を一生懸命選ぶ人と似ている。心の中でそんなのどっちたって変わらねえよって思いながら、そこに実際に身を置く彼らが尊くてかわいくて、どうしてだかわからないけど、そんな人たちをときどき応援したくなる。