モリノスノザジ

 エッセイを書いています

ステルスご当地のススメ

 父は、旅先でスーパーに入りたがる。普段通っているスーパーとは品ぞろえが違うのが面白いらしい。

 たしかに、最近はスーパーにもお土産品が置いてあったり、地元の酒蔵の商品をあつめた特設コーナーがあったりする。簡易包装で比較的安価であったりもして、確かに穴場ではある。
 しかし、「おみやげとして売られているものがスーパーにもある」パターンでなくて、本当に「地元のスーパーならでは」の商品をみつけるのはなかなか難しい。家で料理をつくったり、家事に使うつもりで食材や商品を吟味するのと比べれば、旅先でのスーパーめぐりはどうしても簡易的なものになってしまう。特別なコーナーが設けられていたり、目をひくパッケージでなければ、事前に情報を得ていない限りご当地品を探し出すのは簡単ではない。

 旅先のスーパーだからということで特に丹念に店内を歩くものだとしても、やっぱりご当地品を探し出すのはむずかしい。そもそも、普段通っているスーパーの品ぞろえを、私たちはそれほどしっかり見ているだろうか?いつも行ってるスーパーの商品くらいよく知ってるよ、と思うかもしれないが、私はいつものスーパーに食器用洗剤が何種類、どんな商品が置いてあったかまったく思い出せない。毎日見ているようでいて、案外どんな商品があるかなんて見ていないものだ。何か欲しいものがあったら、多分はじめにその商品が置かれている棚の前に行き、いつも同じ商品を買っているか、決まったルール(一番安いとか、国産のものしか買わないとか)に従って自動的に選んでいるんじゃないだろうか。

 すると、旅先のスーパーでご当地商品を探そうとしても、なかなかうまくいかない。例えば、普段アイス売り場を見ない人は、旅先のスーパーでアイス売り場を見てもどれがご当地アイスなのかわからない。普段からアイスを食べるとしても、「いつも買うのはMOWと決めている」という人は、やっぱりご当地アイスに気が付きにくいだろう。

 私の地元愛知のスーパーには、あんかけスパをつくるための太めのパスタ麺が置かれている(あんかけスパには太めのパスタ麺を使うのだが、他県のスーパーでは一定の太さ以上のパスタ麺はなかなか売っていない)。これも地元ならではの商品ではあるのだけれど、麺の太さが違うだけでパッケージは隣の商品と同じなので、一見して気が付くのは難しい。普段からスーパーに置いてあるパスタ麺の太さを熟知していれば気が付くことができるかもしれないけれど、なかなかできることじゃない。パスタ麺を買うとき、たいていの人はいつも同じ太さの麺を選ぶか、置いてある中で一番安い商品を選んだり、ひいきのメーカーの麺を優先して選んだりしていて、直径何ミリのパスタ麺が置いてあるかなど気にも留めないだろう。

 こうしたステルスご当地を見つけやすいのは、お盆と正月だ。しかも、お盆・正月商品には思ったよりも地域性が出る。たとえば、多くの地域では白い丸餅の上にみかんが載った鏡餅を飾るだろうが、石川県では紅白の餅を飾っている(プラ製の装飾用鏡餅も、石川県では紅白のものが売られている)。地元に戻らないお盆、正月には近所のスーパーをゆっくり見てみるのも楽しいかもしれない。